大慌てでポケモンセンターに駆け込んできたあたしたちにジョーイさんはビックリしていた。でもあのチラーミィを見せると、顔を引き締めて奥の治療室に消えた。

「大丈夫だよね、あのチラーミィ」
「ああ。怪我はしてたけど致命傷になるほど深いのはなかったし、ジョーイさんに任せたから大丈夫だって!」
「うん…」

あたし達は治療室の前のソファーに座って待った。確かにあのチラーミィは大丈夫だと思う。ダメージは受けてるみたいだったけど、ポッドの言う通り死には至らない程度だった。
だけど、と思う。あのチラーミィはあたし達に対して酷い警戒心を抱いていた。きっと以前に人間と何かしらのトラブルがあったに違いない。ぐるぐると暗い感情が渦巻いて、つい顔を伏せた。するとポッドはあたしの頭に手をのせた。

「…お前には、気を許しただろ」
「……!」
「幼馴染みナメんな」

ポッドはそのままあたしの頭に手を置きながら、チラーミィがいる治療室を見据えていた。
あたしはこいつには敵わないなって思った。



***



「もう大丈夫ですよ」

ジョーイさんはそう言ったものの気難しそうな顔をしていた。

「ただ、あの子、警戒心が強いみたいで…。なかなか私も触らしてもらえなかったの。今はタブンネが様子を見てるわ」
「はい。ありがとうございます」
「様子を見に行ってもいいけど、くれぐれも気をつけてね」

あたしたちはジョーイさんに頭を下げて治療室に入った。治療室のベッドにはチラーミィがいてそのベッドの脇にはタブンネが立っていて何やら楽しそうに談笑していた。タブンネは入ってきたあたしたちに気づいて手招きをする。チラーミィは大丈夫かな、と心配だったけれど意外にも大人しくしていた。

「チラーミィ、大丈夫?」
「ラミ!」

しゃがんでチラーミィに声をかければチラーミィは元気よく返事をした。とりあえず、あたしに対する警戒心は薄いらしい。

「良かったな、大事にならなくて」
「…ラミィ!!」
「おわっ!」
「ちょ、ポッド大丈夫!?」
「ラミラミ!」

しかし声をかけたポッドには容赦なく攻撃を仕掛けた。ポッドは間一髪で避けたようで無傷だったからよかった。あたしはポッドに駆け寄ろうとしたけど、なぜかチラーミィがあたしの手を押さえて制止した。

「てめ、何すんだよ!」
「ラミー」

チラーミィはべー、とポッドをバカにしたような態度をとるとあたしの手にきゅっ、と抱きついてきた。もしや、これは。

「ねえ、チラーミィ。あたしのこと好き?」
「ラミ!」
「こっちの、ポッドのことは?」
「…ラミ」
「うんうん、よく分かった」
「俺には意味不明なんだけど」

あー、女の勘なのかな。こういうの分かるのって。なんだかちょっとした優越感があってうふふと少し笑うとポッドはムスっとした。仕方ないからネタバレしてあげようかな。

「チラーミィはあたしがポッドにとられると思ったんでしょ?」
「ラミ…」

チラーミィはさっきより強くあたしの手を抱き締めた。それが可愛くってあたしはチラーミィを抱き上げる。

「大丈夫だよ。この人はそんなことしないから。ね、攻撃しちゃったの謝ろう?」
「……ラミラミ」

チラーミィはあたしの腕の中でポッドにペコリと頭を下げた。ポッドも怒る気は全く無いようであっさり許してチラーミィの頭を撫でた。…またそこで噛みつかれそうになってたけど。もしかしたらこのチラーミィは根本的なとこでポッドが嫌いなのかもしれないと思った。

その後チラーミィはあたしから全く離れようとしないので、ジョーイさんに許可をとってからこの子を捕まえた。モンスターボールは急遽フレンドリーショップで買ってきた。あまり余分にお金を持ってこなかったので帰りの電車賃が足りるか冷や冷やしたのはここだけの話。チラーミィは女の子だったのでかわいい名前を、と思い『花音』と名付けた。花音自信も名前を気に入ってくれたようで頬擦りをしてくれた。かわいかった。
帰ったらアロエママに花音の存在がばれないように気を付けて、千里さんに紹介しにいこう。お土産買えなかった代わりといっては悪いが。ママにばれたらジムトレーナー就任の危機だからそれは避けたい。絶対に。



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