あの日から2日後、仕事が休みだったので私は森に行った。千里さんにお礼をするためだ。お礼として一昨日森でとったきのみで作ったパイを持ってきた。道は送ってもらったときにしっかり覚えたので問題ない。一応なんかあった時のためにゾロアとバオップも連れてきた。だがしかし駄菓子菓子、とかふざけてる場合じゃなくて。

「うん、どうしよう」

私は自分が迷子になって座りこんだ所に来たのはいい。しかしそこから千里さんの家までの道が分からない。奥って言ってもどのくらい奥は分からない。今日もまた木の根本に座り込んで悩んでいたら、そんな私をよそにゾロアとバオップはきゃっきゃとじゃれている。可愛い。

「また迷子ですか?」
「え?」

聞き覚えのある声に振り向けばそこには千里さんがいた。私は慌てて立って服についた草を払う。

「危ないですよ。妙齢の女性がこんなところまで一人で」

そう言って千里さんは眉をひそめる。

「すみません。ちょっとこの前のお礼がしたくて」
「お礼、ですか?」
「はい。だから今日は迷子じゃないんです!あと手持ちの子も連れてきたんで一人じゃありません」

おいでーと2匹を呼べば2匹とも嬉しそうに駆け寄ってきてそれぞれ両肩に乗った。少し重いけど可愛いから許す。

「可愛らしいですね」
「はい、とっても。でも2匹とも男の子だからあんまり可愛いって言うと怒るんですよ」

私が苦笑すると千里さんもつられて笑う。するとゾロアとバオップは少しムスッとして千里さんに渡すパイが入った篭に手を伸ばした。

「あ、こら。千里さんにあげるやつだからダメって言ってるでしょ!千里さん、この子たちが食べる前に受け取ってください!」
「…あの、これ中身なんですか?」
「この間拾ったきのみで作ったパイです。味は保証しますから早く!!」

私は手早く千里さんに篭を渡してじたばたと暴れる2匹を抱き抱える。千里さんは篭を受けとり、こんな私たちの様子を見て口を開いた。

「これ、うちで一緒に食べませんか?」
「へ?」

いきなりの発言に私がぽかーんとするとゾロアとバオップは行きたい食べたいときゃんきゃん鳴く。

「いや、申し訳ないですよ!お礼をしに来たのに振る舞ってもらうなんて」
「これは貴女が作ったものですから私が振る舞ったことにはなりませんよ。それにどんなに美味しい料理も一人では味気なくなってしまう」

ですから、ね、なんて言われたら私は断るに断れなくて。こちらです、とエスコートをする千里さんにおとなしくついていった。


***


「ここです」
「……おおう」

連れてこられたのは小さなログハウス。周りには花やきのみがたくさん植えられていた。

「さあ入ってください」

促されるがままに家の中にお邪魔すればこれまた中もおしゃれだった。木でできた椅子と机。その机の上の花瓶には小さな花が飾られている。というか窓際にもキッチンのカウンターにも花が飾られている。

「何か気になるものでもありましたか?」

千里さんは椅子を引いて私に座るように促す。私は遠慮がちに座った。

「飲み物は紅茶で構いませんか?今はアールグレイしかないのですが…」
「あ、はい。大丈夫です。なんかすみません」
「いえ、私がワガママを言ったのですからこれくらいしませんと。少し待っていてくださいね」

そう言って千里さんはキッチンに消えた。私は暫くキッチンの入り口を見つめるとゾロアとバオップを呼んだ。好き勝手暴れられて人様の家をボロボロにしてしまってはいけない。呼べば二匹は走ってきて私の膝の上に乗った。笑顔で私を見上げてくるから、その可愛さに耐えきれず抱き締めて頬擦りをする。すると二匹もさらに私によってきた。

「仲がよろしいのですね」

私はいつのまにか戻ってきた千里さんの声にビクリと反応すると、千里さんは何事もなかったかのようにお盆に乗せてあったパイや食器を机に並べた。パイを綺麗に切り分け、ティーポットで紅茶をくむ。その手つきは慣れているようでとてもしなやかだった。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
「二人には何を出せばよろしいですか」
「あ、紅茶でお願いします。この子達紅茶好きなんで」
「わかりました」

千里さんは先程と同じようにきれいな手つきで紅茶を淹れる。そして二匹に出すとどちらもよろこんで飲み出した。

「そういえばこの子達名前は」
「ああ、まだ言ってなかったですね。ゾロアが万里で、バオップが晴です」
「万里に晴ですか。素敵な名前ですね」

いい名前をもらいましたね、と千里さんが二匹に話しかければ両方とも嬉しそうに鳴いた。

「それでは、パイを食べましょうか。楽しみなんですよ」
「口に合うといいんですけど…」
「味は保証すると言ってたじゃないですか。その言葉信じてますからね」

にこにこと笑いながらパイを切り分ける千里さんの言葉はプレッシャー以外の何物でもない。でも、結局千里さんは美味しそうにパイを平らげて「よければまた作ってきてください」なんて言ってくれたから、あたしは有頂天になってしまうのだった。



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