「はあ、はあっ」

千里は森のポケモンを安全なところに避難させて、そこからは自分が囮となって走り回っていた。ポケモンの姿ではすぐにバレてしまうからちゃんと人間の姿で。しかしその分足は遅くなる。やっとプラズマ団を撒いたのでとりあえず隠れようと近くにあった大木に上った。そして少ししてプラズマ団がその大木付近にやってきた。バレないように息を殺す。

「いないな」
「逃げられたか?」
「…いや、待て。何かいる」

一人の団員が千里がいる大木に近づく。マズイ、と思ったが動くことができない。

「コロモリ、この木に…」
「万里、バークアウト!」

万里のバークアウトがコロモリに命中。プラズマ団は突然現れたミノリたちに驚く。

「な、この女!」
「待て、さっきビリジオンと一緒にいた奴だ。捕まえるぞ。コロモリ、足に念力!」
「っ痛」

避けることなんてできなくて攻撃を受けてしまい尻餅をつく。足が痛くて押さえると手持ちは叫んだ。そして、その中でも万里の体が光だした。

『ミノリをいじめるなあああ!』
「なっ!?」
「万里っ!」

光がどんどん大きくなる。呆気にとられてみていると徐々に光が収まり、そこには今までの可愛らしい万里はいなくてぐるる、とプラズマ団を威嚇しているゾロアークがいた。万里は進化したのだ。

『許さない!』

万里はあたしを攻撃したコロモリを見つけると走り出した。

『ミノリちゃん、大丈夫?』
『怪我してない?』

近くから声が聞こえてそちらを向けば、今にも泣き出しそうな晴と花音がいた。

「…大丈夫だよ」

二人を安心させたくて優しく頭を撫でる。千里さんのいっていたことが今わかった。幻聴なんかじゃなかった。この子達の声だったんだ。

『『ミノリちゃん!』』

いきなり二人は表情を固くして叫んだ。あたしはこの子達に腕を引かれ状態が前に倒れる。すると、背後でドスンと重い地響きがした。

『何で戻ってきたんですか!!』

聞き覚えのある声に振り返るとそこにはボロボロの千里さんがいた。

「千里さん…」

千里さんの叫びは怒号と言うより悲痛なものだった。自惚れでなければ、あたしをここまで巻き込みたくなかったのだろう。

「ビリジオンだ!」
「捕まえろ!」

プラズマ団の声ではっと我に帰り、彼らの方に向いて構える。

「帰りませんからね」
『………』
「好きな人がボロボロになってるのに自分は何もしないなんて嫌です」
『…怪我はしないでくださいね』
「!はい」

千里さんは飛び出し、あたしはみんなに指示を出す。プラズマ団は皆したっぱなのだろうが、いかんせん数が多い。段々とこちらの消耗が激しくなってきた。そのとき。

「花音!」

敵の攻撃によって吹っ飛ばされた花音をキャッチする。

「花音!大丈夫!?」
『ミノリちゃ…ごめ、ね?』

花音はなくもわめくもしなかった。ただやられたことをあたしに詫びるのだ。この子は悪くないのに。

『ミノリ!』

千里さんがあたしの名を叫ぶ。顔をあげるとあたしの腕のなかに迫るコマタナ。マズイ、ととっさに花音をかばうようにコマタナに背を向けたそのとき。

「バオップ、はじける炎!」
『らじゃ!』

バン、と背後で爆発音がした。振り返るとコマタナは地面に倒れている。

「な、ジムリーダー!?」
「おい、プラズマ団。お前らの仲間はもう倒した。今なら見逃してやる。それとも、このポッド様とやるか?」
「っ撤退だ!」

ポッドの脅しは効いたようで、さっきの勢いはなんだったのかと思うくらいプラズマ団はそそくさと逃げていった。

「ミノリ」

プラズマ団がいなくなったのをポッドはあたしに駆け寄る。

「大丈夫か?」
「うん。みんなが頑張ってくれたから」

ありがとうね、と三匹をボールに戻した。

『…大丈夫じゃないでしょう』

千里さんが不機嫌そうに言いながらあたしの頭に頭突きした。

『念力をくらっていたでしょう。足を見せなさい』
「嫌です。大丈夫です」
『…なら強行手段をとらせていただきます』

千里さんは人型をとるとあたしを無理矢理座らせて靴を奪った。あたしは「うわっ」なんて情けない声をあげてしまった。ポッドは「な、は、え?」と目の前の状況に混乱している。

「ほら、やっぱり腫れてます。あんな無茶をするから…」
「千里さんだって無茶したじゃないですか」
「私は事の当事者です。私がどうにかしないといけないでしょう」
「じゃあ、あたしはその当事者に関わってるんで関係者です」
「…言っておきますが私はもう縁を切ったつもりですから」
「はあ!?」
「……落ち着け、ミノリ。あとセンリさん?状況説明してほしいんだけど」
「「…あ」」

ポッドは所在無さげに発言する。あたしたちは放置していたことを謝り、今回のことでわかっている分だけ説明した。
とりあえずあたしたちの関係、千里さんのこと、プラズマ団のこと。目的はわからないともいっておいた。

「ポッド、といいましたか」
「ああ」
「あとはミノリをお願いします」
「はい?何勝手なこと言ってるんですか」
「私は今あなたと話しているわけではありませんが」
「子供みたいな屁理屈言わないでください。あたしは縁切ったつもりないですからね」
「馬鹿ですか、あなたは。私たちは種族が違うんですよ」
「昔はポケモンと人が結ばれていたこともあります!」
「今は違うでしょう。常識を考えなさい」
「嫌です」

きっぱりと言ってやると千里さんのこめかみがピクリと動いた。あたしは、何を言われようとこれを譲るつもりはない。するとポッドがあたしたちの会話に呆れたようにため息をついた。

「千里さん、こいつ結構頑固な所あるから多分何言っても無駄だぜ?」
「ですが」
「ですが、なんですか。千里さんはあたしのこと嫌いなんですか」

これを言うのは卑怯だと思った。しかしそれより早く口に出てしまう。千里さんはぐっ、と口をつぐんだ。

「あたしは千里さんのこと、好きです。ポケモンだって知ったとき結構ショックだったけどそれでも好きです」

強く、そう言って千里さんを見つめる。千里さんはあたしを睨むように見つめていたが、しばらくしてため息をついた。

「どうやら、私が折れるしかなさそうですね」

そういった千里さんは今までのような穏やかな顔で苦笑した。

「私もあなたのことが好きです、ミノリ」

千里さんはにこ、と笑った。あたしは嬉しくて涙をこぼしたらポッドが「よかったな」とぐしゃぐしゃと頭をかき回した。



×:×
()
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -