彼女が帰ってから私はしばらくの間放心状態だった。ただ謝るだけのつもりだったのに八つ当たりをしてしまった。きっと彼女は私に気を遣ってくれたに違いないのに。自己嫌悪に陥ってため息をつくとライブキャスターが鳴る。誰かと思えば小暮だった。

「…もしもし」
「なんだ、ミノリをやったのに元気がないな」

挨拶をすっ飛ばした小暮の言葉が胸に刺さる。

「……彼女に八つ当たりをしてしまいました」
「やはりな」

何事にも聡い小暮にはすべてお見通しらしい。どうせ白を切っても根掘り葉掘り聞かれることは目に見えているのでさっさと白状する。

「嫉妬してしまいました。あなたが彼女と連絡を取りあっていたことに。それで彼女の気遣いも無下にしてしまいました」
「名前を知らなかったことは?」
「…それもですよ」

小暮が言った通り私は彼女の名前を小暮が尋ねるまで知らなかった。隠していたつもりだが、やはりバレていたらしい。私が黙り込むと小暮は口を開いた。

「千里、お前は昔は全然欲がなかった。だからミノリが好きで俺達に嫉妬していたのは成長したようで友人としては嬉しい。ただ、友人としては、だ」
「……………」
「聖剣士としては貴様がたかが人間の小娘に現を抜かすのは賛成できん」

蒼刃も同じ意見だ、小暮はいう。彼女のことが好きだと公言したことないのに、というのは愚問だ。
小暮の言ったことはすべて私の身に染みる。

「それはわかっています。ただ、少しの間だけ夢を見させてください」

そういうと小暮は顔をしかめる。

「時間はないぞ」
「はい、だからこそです」
「…後悔はしないな」
「あなたが言いますか」

笑ってやれば小暮は「悔いだけは残すな」といって電話を切った。私は間髪開けずに電話をかける。相手はもちろんミノリだ。悪いが今すぐ家に来てほしいと言えば彼女はまだ森にいたようで、本当にすぐに来てくれた。

「あの、千里さん、大丈夫なんですか…?」
「はい。それより先程は八つ当たりをしてしまってすみません」

そういうと手を降りそうな彼女を牽制するように続ける。

「嫉妬してしまいました。いつのまにかあなたと親しくなっていた友人に」
「え?」
「ミノリ、あなたのことが好きです。私と交際してくれませんか?」

そういうと彼女は何を言われたのか分かっていないのかキョトンとしている。そして徐々に顔を赤らめて「こちらこそよろしくお願いします」と言った。私はそれが嬉しくて彼女を抱き締める。すると彼女はさらに顔を赤くした。

ああ、本当に幸せだ。



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