「申し訳ありませんでした!」
「え、え!?」

小暮さんから今度は「千里が回復したから行ってやってくれ」とのお電話をいただいた。言い逃げされるのはわかっていたのでなにも言わずに電話を切った。そして千里さんの家に来たらこれだ。ドアを開けてあたしを見るや否や土下座をした。

「ちょ、千里さんやめてください!」

あたしは何で土下座されているのかわからないので軽くパニックだ。

「お願いですから頭あげてください!」
「……許してくださいますか?」
「あの、すみません。ぶっちゃけ何に謝られてるのかわからないんですけど…」

「えっ」

千里さんは驚きに目を見開いて頭をあげた。

「何もわかっていないんですか…?」
「いや、あの、心当たりはあるんですけど…」

なんか気まずくて顔をそらすと、千里さんは少し考えるそぶりを見せてから立ち上がり、自分の服を軽く払う。

「中に入ってください。その、ちゃんと話しますので…」

どうぞ、と千里さんはいつものようにあたしを家に入れた。そして席に座らせ、いつもの美味しい紅茶を出してくれた。

「それでもう一度聞きますけど、私が頭を下げた理由は…」
「何となく分かりますけど……あの、キ「あってます」……はい」

千里さんは耳まで真っ赤にしてうつむいた。よっぽど恥ずかしいらしい。

「その、はい、本当にすみませんでした…。熱に浮かされていたとはいえ、あなたを、その……襲って……」

どんどん千里さんの声が小さくなり、それに反比例して顔が赤くなる。…なんか、一応こっちが被害者?だけどこんな態度とられたらこっちが悪者みたいな気がしてしまう。

「あの、謝罪なら何でもさせていただくので…」
「えっと、そこまで大事にしないでもらえると嬉しいんですけど…。私そこまで気にしてないですし…」
「…え?」

千里さんはキョトンとして顔をあげた。

「暴行された訳じゃないですし、その、あれも一瞬だったし…。千里さんもわざとじゃないですよね?」

もしわざとだったらこんなに恥ずかしがったりしない。もっと白々しい態度をとるはずだとあたしは考えた。

「…はい」

千里さんは少し不服そうにうなずいた。自分が完全に悪いと思っているのだろう。

「わざとじゃないってことはあれは事故なんですよ、事故。だから千里さんのこと、怒るつもりはないです」

言い切ると、千里さんは複雑そうな表情をしていた。やはり、思うところがあるのか。彼は口を開いたが飛び出た言葉はあたしの予想と違っていた。

「…小暮でも、そのような言葉を言うのですか」
「へ?」

一瞬、千里さんが何を言っているのかわからなかった。千里さんはそんなあたしの様子に苛立ったように続ける。

「小暮でも蒼刃でも見知らぬ輩でも。私でなくてもそう言うのですか」
「え、あの?」
「もし風邪だからと偽っていても事故だと済ますのですか」
「あの、千里さん…?」

少し顔を覗き込むと千里さんはハッと我に帰った。そして「すみません」と顔をしかめる。

「まだ体調よくなかったですか?」
「ええ、かもしれません。…今日はもうお帰りください。完全に回復したら連絡するのでライブキャスター貸してください」
「…どうぞ」

自分のを差し出せば小暮さん同様、千里さんは番号を登録した。さっさとそれを終えて返してくる。

「また、来ますね」

そう言って席を立ったが千里さんは何も言わず、いつもみたいに見送ってくれることはなかった。



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