「もしかして渚ってお金持ち?」


ぼそっとつぶやいた言葉は渚にも聞こえたようで。



「お金持ち、になるのかなぁ…?ていうか精市も結構お金持ちだよね」



聞こえたとは思わなかったので幸村は少し驚いた。



「それより、渚が嬉しそうに報告してきた彼氏ってのは幸村の事か?」



跡部はニタニタした顔で渚をからかう様に幸村に訪ねた。



「嬉しそうに報告…?」


「ちょっ、景吾!!」



再び呆然とした幸村と顔を真っ赤にして怒鳴る渚。
跡部は面白そうに続けた。



「ああ、少し前にな。本人は気づいてなかったと思うがかなり嬉しそうだったな」



「渚…?」



「景吾のアホ!!バカ!!ナルシスト!!」



黙りこくった渚の顔を幸村が覗き込むと渚は跡部に向かって暴言を吐き部室を飛び出していった。



「行っちまったか」


「跡部、詳しいこと教えてもらってもいい?


「ああ。1ヶ月くらい前だったか…?
夜、いきなり電話が来てな。
普段向こうからかけてくることなんてねぇから何事かと思ったら第一声が彼氏できた、だ。
凄い喜んでた。
特に、自分の事認めてくれたって」


「!?」



跡部の意味深な言い方に幸村は固まった。



「知ってるんだろ、幸村。アイツの能力の事」


「跡部、も…?」



恐る恐る尋ねると跡部は表情を暗くした。



「ああ。アイツがそれが原因でいろいろと嫌な思いをしてきたこともな」



幸村は顔を伏せた。


渚本人から彼女の能力について詳しいことを聞いたことはない。
ただ、どんな能力かを知っているかだけだ。

人と違う力を持っていれば迫害されるのはわかりきっている。
渚にもつらい過去があるだろうと思っていた。
彼女から切り出さない限りこちらから聞くつもりはない。

だが、今はどうだろうか。
自分は彼女の力になれているだろうか。


幸村はそれが気がかりだった。
跡部はそんな幸村の考えを見透かしたかのように口を開いた。



「安心しろ。
アイツは今、凄い幸せだと言っていた。過去の事なんか知らないとも言ってやがった。
お前が、アイツを救ったんだ」



幸村が顔をあげると、跡部は嬉しそうで、でもどこか悲しそうな顔をしていた。



「俺にはアイツの力になれなかった。
多分、この先もだ。
だから幸村、これからもアイツの力になってやってくれ。
アイツの泣き顔はもう見たくない」


「ああ」



跡部、言われなくてもそうするさ。
絶対渚を泣かせたりはしない。
大切な彼女なんだから。



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