パン、と末梨は顔の前で手をたたいた。
「ま、堅苦しいのは無しで!!第一あたしは敬語も姫様呼びも許してないしね」
「そこは許すとかじゃないよね。ていうか側近が主を敬って敬語敬称をつけるのは当たり前だろ」
いきなり雰囲気のかわった2人に3人はぽかんと口を開けた。
そりゃそうだろう。
さっきまで厳粛な感じで会話をしていたかと思えばいきなり堅苦しいのは嫌だと言いだすのだから。
「いや、あんたあたしのこと敬ってないでしょ」
「まあね。でも感謝はしてるよ」
2人は呆然とした3人をスルーして会話を進めた。
「精市が感謝してるとか信じられないよね」
「俺としてはお前が俺より強いってことが信じられないよ」
「なっ…表出ろ!!」
「無理」
3人はますます訳が分からなくなった。
主従関係にあるのになぜこの2人はこんなコミカルなやり取りをしている?
幸村はそんな3人に気が付いたようで3人の方をむいて口を開いた。
「俺たちは前世で幼なじみでさ。主従関係っていっても名前だけなんだよね。しかも今世はその契約切れてるし」
「いや、一応切れてないから。あんたがあたしに会いにこないから関係がなかっただけだからね?」
「どういう、ことじゃ?」
口を挟んだのは仁王だ。
何故末梨と幸村は主従関係にあるのか。
それに末梨と幸村は柳を通じてよく会っていたはずだ。
「あれ、仁王知らなかったの?」
幸村は素で驚いていた。
「俺は末梨の家に拾われたんだよ。結構小さいときにね。主従関係になったのは俺が月深家にいやすくするため。貴族ってのは結構周りの目とかきにするからさ、どこの馬の骨かも知らない奴なんて普通に置いとけないんだよね」
「あ、思い出した。あん時のチビ介か、お前さんら」
仁王は末梨と幸村の過去を思い出したらしい。
幸村はチビ介って、と苦笑しながら話を続けた。
「俺が末梨と会ってないってのは側近の幸村精市として会いに行ってないってことね」
「初めて会った瞬間にお互いに気付いてたのにさ、なんも言ってくれないんだもん」
「それ言うなら末梨もだろ?」
「…あたしはめっちゃ責任感じてて声かけられなかったの」
「責任なんてさ感じる必要どこにもないだろ。俺はお前に従った時点で運命決まったみたいなもんだし」
「…だからそれに責任感じてんじゃん」
「え?なんか言った?」
独り言のつもりが少し幸村には聞こえたらしい。
「……なんも言ってないよ」
なんだかんだで心配性だった従者のために何も言わなかったことにしておこう。
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