あの騒動から数日。
テニス部員はあたしと蓮を除き、騒ぎの全てを忘れ何も無かったかのように過ごしていた。
あたしと蓮はあの時の蓮の力がどんな物か見ようとしたが、蓮の力がもう一度現れることはなかった。
話は飛ぶが私は今屋上にいる。
ある男に呼び出されたからだ。
人気のないところがいいと言われたからわざわざ五限目をサボってきている。
大好きな古典の授業だったのに・・・
ていうか自分から人呼んどいて待たせるとかどんなんだよ!?
そうやって心の中で悪態をついていると扉がギィっと錆び付いた音をたてて開いた。
そこから見えたのはきれいな銀色で、その銀色はあたしを見つけるとニィと笑ってこちらに近づきながら言葉を発した。
「渡せて悪かったのう、死神」
「いや?そちらこそ変装までして来なくてもよかったのにな紳士。いや、滅却師《クインシー》」
そう言えば、奴は参りましたね、とウィッグを取り胸ポケットに入っていた眼鏡をかけた。
「なんでわざわざ変装なんかしたの」
「仁王君に私の代わりに授業に出てもらったからですよ。《柳生比呂士》が二人いてはおかしいでしょう?」
そう言って微笑む姿はいつもと変わらない。
でもあたしは冷や汗が止まりそうになかった。
最悪、柳生とは敵対しかねない。
死神と滅却師には因縁がある。
気にしない奴もいるが気にする奴は死神をとことん敵視する。
もし柳生が後者だったら・・・
考えるだけで悲しくなってくる。
「安心してください」
柳生はあたしの心を読んだかのように口を開いた。
「間違っても貴方と敵対しようとは思いません。逆に力になりたい」
そう言っても後から裏切る奴はたくさんいた。
家のせいか、裏の汚い世界は嫌というほど見てきたのだ。
「・・・死神なんかと手を組んであんたには何の利益もないんじゃない」
今までの経験から疑わずにはいられない。
冷めたように言うと柳生の顔は悲しそうに歪む。
「私はただ友として貴方の力になりたいだけです。死神や滅却師なんて関係ない。それはダメなんですか?」
……嗚呼、そうだ
あたしはなんて愚かだったんだろう
柳生の言葉を聞いてふと思った。
あたしたちは友達だったんだ
そしてあたしの周りにはその友達を本気で心配して本気で支えて本気でぶつかるバカしか居なかったんだ
そんなことも忘れてたなんて
「柳生・・・」
「はい」
「ありがとう」
きっとバカにはこれだけで全て伝わる。
「どういたしまして」
ほら、伝わった
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