「あ、そっか。愛和野生暮らしだったから」
「はい。はっきり言って人間の文化は全く知りません」
「夜這いは知ってたくせに…」
「そこには触れない方向で」

ジト目で睨む3人は愛和はしれっとスルーした。

「…じゃあとりあえず食べてみるか?」
「はい。あ、作り方も知りたいのですが」
「じゃあ、来い。作り方教えるから」
「お願いします」
「いってらっしゃーい」

オレンジはのんきな声と共に手を振ってキッチンへと向かう二人を見送った。そして二人が完全に見えなくなったのを確認してココの隣に座った。

「オレンジ?」
「ねえ、愛和だけどさ、何か事情持ちでしょ?」

ココは思わずオレンジの顔を凝視した。子供に見えて案外思慮深い彼にはしばしば驚かされることがある。当のオレンジは少し困ったように笑っていた。

「なんとなーく、なんだけどさ。ホント、なんとなく。愛和はね僕たちに近寄ろうとしないの。警戒してるの。僕たちだけじゃなくて多分、ココにも。僕たちに対してよりは警戒心は薄いみたいだけど。ココは何か知ってる?」
「知ってる。けど、勝手に話していい内容じゃない」
「まあそうだろうねー」

オレンジはバフッ、と音をたててベッドに仰向けに倒れ込んだ。

「いきなりそんなこと聞いてくりなんてさ、どうしたの」
「いやー、ちょっと気になったからさー。ほら、ナナ母さんたちがよく言ってたじゃん。一緒に旅に出ている仲間は家族だって。かけがえのない存在だって。愛和も僕たちにとって家族になるんでしょ?ならさ、家族の負担を少しでも減らしたいって思ってもおかしくないでしょ」

そう簡単なことじゃないだろうけどねー、と最後は消え入りそうな声で話すオレンジをココはただただ見つめていた。

「いつかは話してくれるかなー…」
「ものすごい重苦しくて旅立つと言うのに晴れやかな気持ちが一切ない状態になってもいいなら話しますが」
「愛和!?」

いきなりの御本人登場にオレンジは飛び上がり、ココは勢いよく振り返った。愛和はフレンチトーストが乗った皿を両手に一枚ずつ持っていた。

「全く、何を話しているのかと思えば…。他人に関する話は本人が聞こえないところでするものですよ」
「あー、ごめん…」

あからさまにしょんぼりしたオレンジに愛和は苦笑した。愛和は別に怒っていたわけではない。

「すみません、責めているわけではないんです。ただ注意するに越したことはないと言うだけです」

愛和が口を閉じたとき、タイミングよくレモンが残りのフレンチトーストを持ってきた。レモンは机に皿をおき、ゆっくりと口を開いた。

「俺は、聞きたい。愛和に何があったのか、話してくれるなら聞きたい」

まっすぐと愛和を見つめるレモンに愛和は寂しそうに微笑む。

「オレンジの言う通り、俺たちはこれからは家族だ。できることなら秘密なんて作ってほしくない。言えることは言ってほしい」
「……オレンジ、あなたはどうですか?」

オレンジはしばらく俯いて黙っていたが、やがて顔をあげて愛和を見つめ、はっきりとした声で答えた。

「僕も、聞きたい」




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