それから野生のポケモンやトレーナーとのバトルを避け、コトブキシティにたどり着いたのが午後1時半を過ぎた頃。ご飯でも食べよっか、とポケモンセンターで宿泊の受付を済ましてから施設内にある食堂へと向かった。部屋に設置されてるキッチンを使ってもいいみたいなんだけど材料がないし、何よりわたくし料理できません。お菓子作りなら得意なんだけどね。お菓子作りと料理のスキルは違うんだよ!ああ、こんなことならオレンジとレモンも連れてくるんだった。オレンジは家事とか壊滅的だけどレモンの料理は三ツ星レストランなみに美味しいんだよね。そんな感じで色々後悔しながらご飯を食べて泊まる部屋に向かう。部屋はとても綺麗で過ごしやすそうだった。

『そろそろ下ろしていただけませんか』
「おう、ごめんごめん」

ふかふかのベッドの上に愛和を下ろして自分も腰かける。あーふかふか。自分の家とは大違いだよ。

『あの』
「んー?」

少し寝転がってみようかななんて考えてたら愛和に声をかけられた。その顔はとても思い詰めているようであたしは思わず息を飲んだ。

『話があるのですが、聞いていただけますか?』
「…もちろん」

愛和はありがとうございますと小さく笑うとぽつぽつと話し始めた。

『私は先程バトルが怖いと言いましたよね』
「うん」
『私がバトルを怖がるのは、バトルをすると思い出してしまうのです』

ぎゅっと強く握られている愛和の手が震える。

「愛和、無理しなくても…」
『いえ、話します』

そう言った表情は真剣そのものだった。

『私は長い間野生で暮らしていました。ただラルトスは元々ホウエン地方のポケモン。ここシンオウ地方にも生息しますがホウエン地方に比べて数が少ないのです。まあホウエン地方でもわんさかといるわけではありませんが』

いまだに震えている愛和をあたしの膝の上にのせて優しく抱き締める。愛和は少し驚いたようだったがそのまま話を続けた。

『だからラルトスという種族を狙う輩はたくさんいました。トレーナーも研究者もたくさん現れました。そしてラルトスの中でも私がよく狙われました。私は生まれつき他のラルトスに比べて能力が異常に高かったからです』
「………」
『私はどの人間からも逃げ切っていましたが半年ほど前ですかね、ギンガ団と名乗る奴等に捕まりました。私は野生で生きることを諦めて私を捕まえたトレーナーに付いていこうと思ったのです。ですがその後どうなったと思います?』
「…愛和」
『私は実験されたポケモンの成果を試す為の対戦相手として使われたんですよ。こいつが倒せたら文句なしの成功だ、みたいな感じで。私も相手も戦意は全くないんですよ。寧ろ相手なんかは意思があるかもどうかも怪しいくらいで。本当馬鹿げてますよね。そんな事をする輩に易々と捕まった私も…』
「愛和!!」
『っ!』

あたしは強く強く愛和を抱き締める。

『まだ話の途中ですよ』
「…泣いてる」
『…え』
「愛和、話しながら泣いてるよ」
この子を安心させたい一心で強く愛和を抱き締める。貴方の味方はここにいるからと伝えたくて。なんでこの子がいきなりこんなことを話してくれたかなんてわからない。でも、いつの間にか泣いてしまうほど、あたしが想像することもできないくらい辛い過去に違いない。

「怖いなら、辛いなら無理しないで。なんとなく続きは分かるから、無理して話さなくていいから」
『っ…』
「怖かったんだよね、辛かったんだよね。…もう大丈夫だから。あたしは愛和の味方だから」
『っ、あああああ!!』

愛和はあたしの腕のなかで狂ったように泣いた。そして泣き止んだ頃には疲れてしまったのか穏やかな顔で眠ってしまった。あたしはそんな愛和に膝枕をして小さな頭を撫でていた。



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