4月
新学期になり、学年も一つあがった。
さすがに始業式に遅刻する訳にはいかず、普段遅刻魔の赤也も時間まで余裕を持って学校に着いた。
(えーっと、俺のクラスは・・・D組か)
自分のクラスを確認し、一緒に名前を探していた友達と別れる。
その友達とは違うクラスだった。
クラスに着くと定員の半分くらいの人数がすでに座っていた。
座る席は自由らしく、皆友達同士近くの席で固まって座っている。
赤也はこのクラスに特に親しい人はいなかったので、それならとサボりやすい窓側の一番後ろにしようと移動した。
が、
(もう人いるし!)
赤也がねらった席にはいかにも優等生といった雰囲気をまとった女子が座って本を読んでいた。
それも文庫などのコンパクトな物ではなく、軽く3、400ページは越えるであろう、分厚い本だった。
(うわ、話しかけにく・・・。てか話しかけとこで席替わってくれっか?いかにも真面目!って感じだし、サボりやすそうだからとか言ったらなおさらダメだよな)
「ねぇ」
「!?」
「さっきからこっちジロジロ見て、何かあるの?迷惑なんだけど」
座っていた女子は赤也の方に振り向くとしかめ面で吐き捨てた。
どうやら悩んでいる間、ずっとその女子の方を見ていたらしい。
「あ、う、えっと・・・」
当の赤也はその言葉に苛着くのではなく、いきなり話しかけられたことに驚いていた。
「あの、さ、良かったら席替わってくんね?」
「何で」
しかめていた顔がさらに不機嫌そうに歪む。
「え、そりゃあ、窓際で一番後ろの席ってサボりやすいから」
女子ははぁ、とため息を着くと荷物を持って立ち上がった。
どうやら替わってくれるらしい。
ものすごく不本意そうだが。
「どいて。そっちの席に移るから」
そっちの席とは元々座っていた席の右隣。
「替わってくれんの!?」
「替わってっていったのアンタじゃん」
サンキューと赤也は上機嫌に席に座った。
女子も座り用具をしまい直す(と言ってもほとんど荷物はない)。
「ありがとな。えーっと・・・アンタなんて名前?」
「人に名前を聞くときは自分から名乗るものでしょ」
「え、もしかして俺のこと知らない?」
「知らない」
赤也は目をまん丸に見開いた。
まさか去年全国制覇した自分を知らないと言う人間が立海生の中にいるとは思わなかったのだ。
「何?アンタ有名人?」
「まあ・・・。俺は立海テニス部レギュラーの切原赤也」
「!!」
テニス部と言った瞬間、少女は物凄く嫌そうな顔をした。
ここまで露骨に嫌な顔をされるとこちらも嫌になる。
「んだよ。テニス部がそんなに嫌なのかよ」
「いや、そうじゃなくて。気分悪くさせてごめん。あたしは藍沢瑞綺」
赤也は嫌な顔をした理由が気になり、謝られても気分はおさまらなかった。
「なんでそんな嫌そうな顔したんだよ」
「あー、テニス部って女子のファンいるじゃん?それもかなり熱狂的な。なんかレギュラーと仲良いといじめられるって聞いたからさ。あたし、できるだけ平穏に送りたいんだよね、学生生活」
(ッ!?)
赤也は瑞綺にあっさりと言われた内容に軽く傷ついた自分に気づき、少し動揺した。
思えばこんなに女子と話をしたのは久しぶりだったと赤也は過去を振り返る。
中学に入学して、テニス部のレギュラーになってからはその地位と赤也のルックスにより下心を持ってお近づきになろうと話しかけてくる連中しかいなかったのだ。
けれど瑞綺はテニス部と言った瞬間喜ぶどころか嫌そうにした。
今までの連中と違うことはよくわかる。
だから、少しだけ期待したのかもしれなかった。
何を期待したのかまではわからないが。
「ククッ・・・」
「?」
赤也は瑞綺の笑い声にいつの間にか伏せていた顔をあげた。
「変な奴」
「なっ///!!」
瑞綺はさっきのしかめ面から想像できないくらい美しく、優しそうに笑った。
「な、何笑ってんだよ!?」
瑞綺の笑顔に対し、顔を赤くした赤也は照れ隠しにほぼ反射でかみつくように質問した。
「だって、切原。アンタさっきから考え事だろうけどひとりで二十面相してたよ?」
「・・・マジかよ」
単純な性格だとは自負していたが、そこまで顔に出やすいとは。
「なんか顔赤いけど大丈夫か?」
「ッ!?だ、大丈夫だ!!」
「そう?」
ヤバいと思っていると担任が入ってきた。
クラスを見渡すといつの間にか全員が席に着いている。
とりあえず会話を切ってくれた担任に感謝。
あのままじゃマジで危なかった。
完璧に一目惚れだ、こりゃ。
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