「はぁ・・・」
私は誰にもバレないように小さなため息をつきました。
先ほどのことが気になり練習にも身が入りません。
「柳生、どうしたん?」
ダブルスペアで一緒に練習している仁王にも心配されてしまいました。
「いえ、なんでもありません」
「そっか。ならいいんじゃが」
いつもの様に装って返事をすれば、仁王は納得いかなさそうな顔をしましたが案外すんなりとひいてくれました。
「次は丸井たちと試合ぜよ。それまでに頭冷やしときんしゃい」
「…はい」
…仁王君には隠し事できませんね。
―――
―――――
あの後、私は図書室を出て扉を閉めてからなんとなく部活に行く気分になれませんでした。
だからまだ時間も少しあるからとぼーっと扉の前に立っていたのです。
そうしていたら中から音が聞こえました。
最初は小さすぎて何の音か分からなかっのですが注意深く聞いていると人の泣く声だと分かりました。
その声が藍沢さんのものだということも。
私は中に入ろうかと思い扉に手をかけましたが、やめました。
藍沢さんは周りの人間に対して不信感を抱いています。
それも人見知りなどと表せないほど軽いものではない位のを。
去年から知っている私に対してもそれは存在します。
多少は気を許し、好きな本を語ったりはしましたがそれだけです。
彼女はそれより深くは私を受け入れようとはしません。
そんな人間が他人に心配されていい顔をするでしょうか。
答えは『NO』です。
藍沢さんはただでさえ人を拒絶し寄りつけません。
その上プライドも高い方です。
泣いているところなんかを見られたら確実に傷つくでしょう。
「私は、あなたの力になれないのですかね・・・瑞綺さん」
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