厄介なこととは、何の前触れもなく起こるものである。
そしてそれは綱吉も例外ではない。
某日、いつものように応接室に行き、いつものように抱きつき、いつものように愛を叫んでいたときのこと。
(綱吉にとって、比較的)平和だった日々を壊したのは、突然やってきた家庭教師であるリボーンの報告からだった。
「む、げん…」
夢幻。
イタリアに戻っていたリボーンから聞かされた、ある違法薬物の名。
「その薬物を摂取した奴を調べた結果、覚醒剤とも麻薬とも違った症状がでていた」
「つまり新種の…恐らく偶然できてしまった産物」
雲雀がリボーンの話から推測し言葉を発した。
そして、その可能性が高いと綱吉もリボーンも判断している。雲雀が口に出して言うことで間違っていたことがないのを2人は知っている。
偶然できた産物。しかも薬物。
3人はその意味を理解していた。
偶然ということは、本来ならできなかったということ。その場合、薬物を作った人物の能力にあわないものが作り出されることが殆どだ。
つまり、解毒剤がないということ。
結果、薬物が体内から完全に無くなるまで監禁生活をおくらなければいけないということだ。
このことは、綱吉にとって、許せることでは無い。
「…リボーン。9代目からの指示は?」
「ボンゴレに見つかったと思い日本へと逃亡したと思われる組織の発見、殲滅。そして夢幻のデータの回収。以上」
「了解」
そう答えた綱吉の表情は、いつもの可愛らしさというよりも、強い意志を持った、どちらかといえば美しいものだった。
「恭弥さん」
「なに?」
「手伝ってください」
「…si」
綱吉は知らない。
いつもこんな風にしてたら好きなのに…。でも、この子の素があれだからこそ一緒にいられるのかも。
などと考えていることを。
雲雀は知らない。
素敵能力、読心術でリボーンに考えていることが筒抜けだということを。
可愛い生徒を恋が実るかも知れないと、人知れず笑っていることを。
リボーンは知らない。
可愛い生徒が雲雀と付き合うまでに至る期間は、己が考えているよりも、ずっと長いことを。
3人は知らない。
事件はもう、すぐそばまで近づいてきていることを。
「バイバイ、沢田さん。また明日ね」
返事は、ない。
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