自業自得だ、と黒子は思った。
馬鹿で愚かだと自分自身を罵った。




「……くそっ、何処行きやがったあいつ!!」

「黒子が見つからないなら望美ちゃんのところに行くぞ!」

「そうだな。アイツにかまってる時間が勿体ねぇ」


自分の目の前を走っていく生徒達を見ていた。黒子は隠れているわけではない。ただ、影が薄すぎて気付かれないだけだ。
黒子から存在を現さないかぎり誰にも見つかることは無い。今の光という存在だった黒子の相棒でさえも。






なぜ、黒子が学校にいるのか。
それは、黒子がキセキを説得して説得して、兎に角説得しまくった結果である。

初めは大反対だったキセキも、説得という名のお願いには弱かった。溺愛している黒子が最終的には涙目になってお願いしてきた時には、反対する意志よりも、物凄い勢いで暴れまくる本能を、崩れ去っていた理性で押し止めようとするのに必死だった。
それはもう、後で自然を装ってトイレへ直行するぐらいには。






黒子は知らないが多大なる被害を出してまで登校した学校では、何1つ。黒子が学校に来なくなった間に何1つ変わってはいなかった。
誰もが宮内望美を全てとしていた。




一体、何なのだろう。
そう、黒子は思う。


黒子にとって、いや正常な人間にとってこの学校は異常だった。
おかしい。気持ち悪い。
宮内望美が転校してきてから、そうとしか思えない環境になっていた。
生徒も、教師も、勿論バスケ部の皆も、その異常に気付かない。気付こうとしない。



わかっていた。学校に登校してくる前からわかっていた。
このような状況になっているのをわかっていて来たのだ。

ただ、心配だった。バスケ部の皆が心配だった。


宮内望美は転校してきてすぐにバスケ部のマネージャーを希望してきた。そのころはまだ大丈夫だった。皆、宮内を歓迎していたわけではない。マネージャーがいなくても部活の練習に支障はなく、何より彼女の態度が問題だったからだ。

彼女は監督や顧問の先生に許可を取ることなく勝手にバスケ部マネージャーを名のっていた。そして最も問題だったのが練習の邪魔。
彼女は練習中にも関わらず話しかけてきた。黒子はそんなことは無かった。それは影が薄くて認識されなかったからだけで、認識されていたのだとしたら黒子にまで被害があっただろう。
兎に角、彼女は邪魔だった。部内で1番沸点の低い火神がブチ切れて彼女に文句を言おうとした時に誰も止めなかったくらいは。

ある日黒子は1人担任に雑用を任され練習に行くのが遅くなった日があった。練習が始まって1時間も時間が経っていたために、急いで体育館へ少し速足で向かっていた。


そして体育館に近づいた時、聞こえたのだ。
バスケ部の皆と宮内望美の笑い声が…。







それからは僕の存在は無くなっていた。





つうーっと頬を流れる涙。
黒子はただ、1粒だけ涙を流し、後は普段の無表情へと戻った。
1人ではないと知っているから。もう、1人ではないと分かっているから頑張れる。
僕が、僕が皆を助けないといけない。そのような使命みたいなものを感じていた。


そんな時だった。







「………君が、黒子テツヤかい?」


全く気配がなかったのに聞こえた声に、反射的に後ろを振り返る。

そこにいたのは漆黒。肌は異常に白かったが、髪も瞳も服装も。何もかも黒い人がいた。
異様に顔が整っていたが、黒子は同性なのでそこはあまり興味を示さなかった。
が、自分の名前を知っているのには驚いた。



「…なんで、僕の名前を」

「………“てつや”って同じ名前なのに全然似てないね。君、弱そうだし」


無視ですか、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
言っても無視されそうな気もしたし、何よりこの人物に逆らってはいけないような感じがしたからだ。




「黒子テツヤ」

「はい…」

「君を保護しに来た」

「………え?」

「借りを返しに来たんだ」



そう言った男は無表情で、言っている意味も全く分からなかったけれど、黒子はただ頷いた。






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