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これは、違うんだ。
愛がない行為を、貪られているはずなのに。
「…挿れるよ」
そう言った声が酷く優しくて、恋人同士の行為だと錯覚しそうになる。
敏感になった場所に、ぴとりと先端があてがわれる。
指とは比べものにならない質量感と熱さに息が詰まったが、頭の端に残った理性を振り絞って力を抜く。
途端、先端が滑り込むのを感じた。
「っふ、う、…ッ」
「祐樹、…」
少し訝しんだような声が背中から降ってくるが、顔も見えない体勢では真意は窺えない。
男に襲われて溺れる俺が、気に食わないのかもしれない。
泣きも叫びもせず、赦しを請おうともしていない俺を。
…『淫乱』だと、あの人が言ったように、智也さんもそう思っているんだろう。
智也さんが興奮している対象は俺自身ではなくて、犯しているという状況なのだと考えれば、そうだという気がしないでもない。
「っひ、ぁ、ん」
先端のくびれで浅く抜き差しをされると、足元からぞわぞわとした快感が這い上がる。
肉を割り入る感覚に体が身構えたが、ローションが滑りを良くし、痛みを感じない。
その代わりに智也さんの熱の形を直に感じて、心臓が跳ねた。
痛くないのも、相手を感じるのも、初めてで。
でも、こんなにも、
「き、もち、い、…ッ」
思考に余裕はなく、気持ちがそのまま口を衝いて出る。
その一瞬、智也さんは動きを止めると、挿れかけていたモノをずるりと引き抜いた。
排泄にも似たその喪失感に肌が粟立つ。
感じてしまった物足りなさに、顔が羞恥に染まるのを感じた。
「あ…」
「…手加減、出来ないから」
そう言った智也さんはもう一度後孔に先端をあてがうと、一気に体を貫いた。
「ひぁああッああ!」
「ナカ、熱いね…纏わりついてくる」
突然の衝撃と圧迫感にえずきそうになるが、内壁を擦る熱を感じて心拍数が上がった。
腰を掴まれ、バックの体勢で打ち付け奥が突かれる感覚が堪らない。
犯されて、気持ちいいなんて、どうかしてるよな、俺。
「う、ぁ、や、ッあ!」
「…ここ、でしょ?祐樹のイイところ」
腰を押し当てた智也さんは前立腺を先端で弄ぶような律動で体を揺さぶった。
耳元で呼ばれた名前にびくりと反応してしまう自分に半ば諦めたような気持ちが起こる。
『犯す』と言われたときは、以前受けた仕打ちを思い出して恐怖が勝っていたけれど。
こんな事になっても、不思議と智也さんへの恐怖や怒りは感じない。
ただ…肌の擦れあう熱と、時折感じる智也さんの香りに戸惑っていた。
こんなの…狡いよ、智也さん。
「ッはぁ、んあ、あ、あ」
長いストロークで内壁を擦られながら、前に伸びた智也さんの手が再びペニスを抜き上げれば、体中が快感に震える。
鼻腔に流れる香りは、信じられない程に甘くて。
その切なさを消すように、縛られた手を握りしめることしかできないんだ。
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