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連れて行ってもらった小料理屋は、どのメニューも美味しくて、幸せな気持ちで店を出た。

「ごちそうさまでした。智也さん、いいお店知ってるんですね」
「会社の人に教えてもらったんだよ」

美味しい料理のおかげで話も弾み、智也さん、祐樹くん、と呼び合う位には打ち解けていた。

俺の名前を知っていたのは、バイト先の店長から聞いていたせいらしい。
何でも大学時代からの友人だそうだ。
智也さんが大手の貿易会社に就職した後もたまに会っては飲んで、店長の介抱をするのがお決まりのパターンだとか。
片やエリート、片や居酒屋店長か、と思ってしまったのは店長に申し訳無いので忘れることにする。
会社帰りに店に寄ろうとした智也さんが、俺のあまりにも疲れた様子が心配で声を掛けてくれたらしい。
大学の話やバイト先の話なんかをしながら歩いていると、あっという間に駅に着いてしまった。

まだ、もう少し話がしたかったな。

名残惜しさが胸を掠めたが、もうすぐで終電がやってくる。
またバイト先で会えるだろうし。
そう自分を納得させて、今夜のお礼を切り出そう口を開いたとき。

「終電、見送ろっか?」

話も尽きないし、と智也さんが笑う。
同じ気持ちだった事が嬉しくて、勢いよく頷く。

「いいんですか?!」
「俺もまだ話し足りないし。とっておきのお酒もあるから、呑み直そうよ」

こんな楽しい時間がまだ続くんだ。
大学とバイトを行き来するだけの毎日の中で急に訪れたご褒美。近くにあるという智也さんのマンションに向かう間、わくわくする気持ちは止まらなかった。




智也さんの部屋に着いて、おすすめだというワインを飲みながら、1時間は経っただろうか。程よく酔いも回り、気分が良くなってくる。

「祐樹くん、さっきから全然話聞けてないでしょ」
「そんなことないですよ〜」

そういう俺はもうへろへろで、出来ることと言えば智也さんを見つめることだけだ。

今まではただのお客さんだった彼と、仲良くなってお酒を飲んで。アルバイトって本当に色々な経験ができるんだな。

しみじみ感心する俺を、真面目な顔をして隣で眺める智也さん。
少し切れ長の目は俺を真っ直ぐ射抜く。

ああ、ほんと、綺麗な顔してる。

そう思ったのと、智也さんが動いたのと、どちらが先だったか。

床に押さえつけられた肩が、震えた。




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