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『今晩会える?』
夏休みが終わり大学が始まって以降、ほとんど会えていなかった智也さんからメールが届いていた。
啓太と食堂で昼ご飯を食べた後に講義前から見ていなかった携帯を確認したので、メールが届いてからは軽く2時間以上は経っている。
会えていない、という表現を使って考えてしまうあたりが自分でもどうしようもないな、と思う。
恋人同士という訳ではない。ただ、そんな錯覚に陥りそうになる位には関係を重ねてきた。
『会えるよ』
ついそう打ってしまった画面を見つめる。
「…馬鹿だよね、俺」
甘えが、見透かされそうで怖い?
違う、本当は…
はっと我に返る。
俺は、この関係に何を求めているんだろうか?
『いいよ。どこに行けばいい?』
そう打ち直して返信する。
自分に関することは何も悟られたくない。何も。
消してしまいたい過去も。
『大学出る時教えて。迎えに行くから』
数分後返ってきたメールを見て、どくりと心臓が鳴った。
やはり嬉しい、と思う。
男の自分と関係を続けてくれることも、プライベートを詮索せずに絶妙な距離を保ってくれることも。
たまにバイト先に飲みに来てくれることもあって、友達の少ない俺を心配してくれていたはずの店長が「俺抜きでも仲良くなりやがって…俺の祐樹が…」なんて嘆いていた。
人には仲良く見えてるのかな。
まさかセフレだなんて思わないだろうが、仲がいいと思う程度には認識されていると思うと、少し安心する。
歪んでしまった主観では、他人との距離は測れないから。
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