episode.7



 朦朧としていた意識が徐々に覚醒する。



 アクマに吸われていく。
 守るべき少女の魂が。「初恋」という感情が。欠如していく。壊れてしまう。

 テンシは声にならない声を上げて得物に手をかけた。
 轟音。銃のようなものから大量の光が放出され、あたりが白く染まる。

「なつきさんから離れろおおおっ!!」

 壁についていた体を無理やり引きはがし、何も見えないはずの光の中へ突っ込んだ。
 自らアクマに触れてでも、彼女を奪還しなくてはならない。アクマのくちづけを受けてしまった彼女を、それでもテンシは諦めたくなかった。自分が無力なせいで、過保護なせいで、救えないことなどあってはならない。それは正しくないことだ。

「言われなくてももう、そいつに用はねぇよ。くれてやるさ」

 対するアクマは、手に生み出した槍のようなもので光を弾き飛ばす際に、少女の体をテンシに向かって投げ捨てていた。それがモノだと言わんばかりに、ぞんざいな扱いで。

 真っ白な世界で、テンシは少女を抱きとめた。
 意思の失われた少女の体は重かった。ただ、重いだけだった。

 小柄なテンシは出し得る限りの力を使って、彼女を受けとめた。
 大切なものを奪われた少女の体は温かかった。ただ、温かいだけだった。

 テンシは少女を抱きしめた。


「……なあ、天使」

 光は拡散し、アクマの手から槍が消える。

「お前も本当は、こっち側の存在なんじゃないのか?」

 一歩踏み出したアクマに、テンシは反応しない。

「俺たちは似てる。お前には十分、堕ちる理由があるじゃないか。それが道理だとは思わないのか? 憎いだろう? 理不尽だと思ってるはずだよな? それなら俺たちの仲間になればいい。そうすれば変えられるんだよ。わかるよな、天使」

「……なつきさん。目を覚ましてください、なつきさん」

 アクマが大きな舌打ちをした、瞬間。

「っ──!?」

 黒い衣服の上から、その体の中心部が、どろりと溶け出した。

「な、……う、うえっ、っぐ、うあっ……」

 アクマの姿が変貌する。

「う……うう……」
「なつきさん!?」

 少女のかすかなうめき声が、呼び続けた名前の意味を果たした。

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