episode.8 「なるほど……」 天使くんはふむふむと私の説明を聞いていたけど、頭の中で納得したら、きっと気が付いてしまうんだろう。 本当は私だってよくわからない。 もしかしたら違ったのかもしれない。だって初めてなんだもの、確証なんてない。でも、よくわからないからって、向き合わないのはダメだと思うんだよ。曇ったガラスの向こうにあるものでも、それは確かにあるんだから、認めてあげたい。 だってそれは決して、罪なんかじゃないと思うから。 「あれ? でも、アイツの目的は、なつきさんの『初恋』だったはず……その感情をなつきさんが抱いていなかったから助かったんですよね」 不思議100%の顔で天使くんはつぶやく。 「おかしいな。なつきさんはこれまでに恋をしたことなんてないのに」 くっ、言い切られた。 そういえば私、天使くんと会ったその日に、恋したことないって言っちゃった気がする。それはそうなんだけど、それにしても、断定の仕方が勢い良すぎるんじゃないかと。 あ、そっか。 天使くんは私の守護テンシだから、見ていたんだ。 見ていたん、だよね? 「アイツじゃないなら、なつきさんの初恋の相手って、誰なんですか?」 お姉さんは寛大だから、そんなことを責めたりしないけど。 私は笑ってみた。 いくら私が自分の気持ちと向き合ったって、変わらないこともある。求めてはいけないものがある。臆病風に吹かれてそうするんじゃないなら、及第点だ。 エゴの可能性を怖がらないで、相手のことを思えたなら、諦められたら、誰も傷付かない。 「天使くんはさ、私と初恋の人との恋、応援してくれる?」 リゾットから昇っていた湯気は落ち着いている。 私の気持ちもこんなふうに、少しずつ見えなくなって、空気に溶けていくのかもしれない。「彼」に対する気持ちと同じように、心の中にしまって、甘酸っぱいとかそんな味のする思い出に変わるのかもしれない。 それはきっと、どんな恋も辿り着く場所だ。 「もちろんです。オレはなつきさんのテンシですから」 なんて運命的な言葉だろうと思った。 「今度こそ、その思いの行方がどこであろうと、見守ります」 ああ。 少女漫画みたいな展開を現実で目にするなんて。少女漫画の主人公みたいな気持ちになるなんて。 稀少体験だ……。 [しおりを挟む] ← |