prologue


「まあ、そんな話はいいじゃないですか」

 天使くんは笑った。
 見た目から年齢とかを推し測ろうとしていた私は出端をくじかれたわけだし、色々厳しいし、これ以上食い下がっても嫌われるだけって気がする。

 だから、そうだね、と曖昧に笑ってみた。すると、天使くんはそれ以上の笑みを浮かべてくれたから……ああ、よかった。かわいいなあ。

「それよりオレはなつきさんの好みのタイプが知りたいなー」

 すごくかわいい。
 弟とかがいるなら、こんな子がいい。残念ながら、私には二人の兄がいるだけで、妹はおろか弟もいないんだけど。

 商店街を出てしまったところで、さっきの天使くんの問いを回避する方法を考えてみたけど、うまいのが思い付かなかった。
 私は色恋ネタで耳が痛くなるんだよ天使くん!

「どうしていきなりそんなことを聞くの、かな?」

 お姉さん、つらい。
 その手の話での良い思い出など何一つないのだ。そんなものは気にしなくてもいいじゃない。

「んー、参考にと思って、です」
「わお、もしかして天使くんってば私に一目惚れでもしちゃった?」
「天変地異が起きてもそんなことはないですね」

 わざと茶化すような態度を取った私は笑顔で固まった。くっそー、本当にかわいいなこの子!

 私はこっそり溜め息を吐いた。そうだよね、シャカイジンうんぬん言ってるけど、そういうのではしゃぐ時期ってあるよね。
 私にもあった。周りに合わせてそんな話をしていたような、無邪気なあの若き頃。いわゆる至り。

「好きなタイプ、ねえ」
「はい」

 小学生のときは、早く走れる男の子ってのが定番だったから、私もそんなことを言っていた気がする。
 かっこよくて、スポーツマンで性格良くて、もちろん頭も良い。

 そんな物件、世界の果てまで探しに行っても見つからないってことは、中学生にもなれば分かることだった。

 その中学生のときは、顔がまあまあ良くて、優しい人ってのが多かった。
 高校では、頭はあれでも面白い人っていうのが人気だったかな。馬鹿でもギャグを飛ばせて笑いを取れれば良いってやつ。

 しかし、どの記憶を辿ってみても、そこに「私」という個人の嗜好、テイストってやつは組み込まれてなかった。
 いつだって流されてて、いいないいなって、思うばかりで、自分では一度も。

 急かさずに返事を待ってくれている天使くん。
 適当に誤魔化しても良かったはずなんだけど、なあー。うーん……。


「あー、天使くんは?」

 分かってる。
 逃げてしまった。

 恋なんてしたことないから、分からないよ。

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