episode.? 彼女は何も言わなかった。 ただ、どうしたら良いのかわからずに泳ぐ視線とか、意識とかが私には筒抜けで、とてもうれしかった。彼女が動揺している。そして、緊張している。 そんなふうにしてたら、本当に食べちゃうよ。 その日の私たちは、隣り合う家に着くまで、ずっと手を繋いでいた。 彼女の心音が聞こえるみたいだった。 得られないものを求める気持ちを抑えるためにしたことが、逆に彼女をもっと欲しがってしまう原因になるなんて、私に予想できるはずもなく。 手を繋いだ日から、私の気持ちは膨らみ続けて、おなかだけは減ってきた。彼女を食べてしまいたい気持ちと、彼女と一緒にいたい気持ちの板挟みにあって、私はふらふらだった。 彼女には贈り物を贈ったり、やっぱり手を繋いだりもして、デートに誘うなんてこともしてみた。驚いたことにそれらはすべてうまくいって、私と彼女は、みんなに隠れて抱きしめ合うくらいの関係になった。 それは校舎裏だったり、誰もいない空き教室だったり、カラオケボックスだったり、私の部屋だったり、彼女の部屋だったりした。 彼女は17歳の誕生日を迎えていた。抱きしめたらキスしたくなるし、キスしたらそれ以上のこともしたくなることは何となくわかっていたから、私は彼女を自分の腕に閉じ込めることで、気持ちも押し込めようとした。 それが逆効果だったことは言うまでもないけど、それでも私は耐えた。 テンシやアクマは精神世界に近い存在であるため、ヒトのように、物体としての食事をする必要はない。 テンシは神から加護を受けているから空腹を感じることはないけれど、神を裏切ったとされるアクマはそうもいかないのが現実だ。 アクマはヒトの感情を食べる。 食べる感情はアクマによって、ダテンシになった理由によってそれぞれ違ってくる。 私は彼女に恋をしたことによって堕ちた。恋慕を望んだダテンシは、ヒトの恋慕を食べることで存在を維持することができる。そして私の恋はもちろん、「初恋」だった。 アクマに感情を食べられたヒトは、その感情を記憶とともに永遠に失う。 空腹に耐えかねた私は彼女以外のヒトに初恋の感情を抱かせて、こっそり食べていた。そうしなければ、彼女のそばにはいられなかったから。 大学受験を終えた彼女を部屋に招いたある日。 私の隣りに腰掛けた彼女の様子が変だから、不思議に思って感情を探ってみると、そこにあったのは、あまりにまっすぐな「不安」だった。 [しおりを挟む] ← |