episode.6



 紅茶に角砂糖とミルクを入れて、ティースプーンでぐーるぐーるとかき混ぜる。白はもやもやと渦を巻いて溶けていく。

 正面の大門さんはホットコーヒーを一口飲むと、ソーサーにカップを置いた。

「なあ、柊。恋は罪悪だって言うけど、柊はどう思う?」

 大門さんの紹介でやってきた小さな喫茶店。木のテーブルに木の椅子と、壁に掛かった古風な絵、レトロな雰囲気がとても素敵。

 私はティースプーンを動かす手を止めて、大門さんを見た。

「恋は罪悪……ですか」

 大門さんの目はまっすぐで、真っ黒で、その奥にはいつも何かが住んでいる。私の知り得ないものだったり、今みたいな、静寂だったり。
 さっきの映画で、何か感じたのかもしれない。

「神さまってやつは基本的に恋を禁じてるんだ。アダムとイブを見て何か思ったんだろうな、自分の近くに置いておくものには純粋であってほしいんだってよ。だから、恋は罪になるらしい」

 今日の大門さんはやけに饒舌で、そこでまたコーヒーを一口飲んだ。
 どうしてここで、神さまとか、アダムとイブとか、そんな神話みたいな話が飛び出てくるの?

「神は恋をするよ。人間も恋をする。でも、俺たちにはそれが許されなかった」

 大門さんの話は輪郭をなぞるばかりで本筋が見えない。ティースプーンを持ち上げて紅茶をすすると、ちょっとだけくらくらした。いいかおり。

「罪を犯せば堕ちる。俺たちはそういうふうにできていたから」

 まるでモノローグのように、大門さんはぽつぽつと話した。簡単には相槌を打てなかった私は、ただ、観客のように、それを聞くしかできない。
 くらくらした頭でもわかることは、目の前にいるはずの大門さんがとても遠いことと、そんな彼の近くにいたいということだけだった。

 そんなことはないよって言って。一人で傷付かないでって、私が一緒にいてあげたい。
 とても悲しくて寂しい気持ちでいるなら、私が支えてあげたい。

 恋という素敵なものを、罪だなんて言わないで。

「柊は俺のことを忘れないかなあ。あれだけのことをしたのに、待ってるんだ。俺って欠陥だらけだよな」
「……わ、」

 答えなきゃ。

「忘れ、ません!」

 私はやっとの思いで叫んだ。

「私は大門さんのことを、忘れたりしません。恋も、罪じゃないです。だって、私は──恋は──」

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