episode.6 2時間はあっという間だった。 エンドロールを眺めながら、私は涙を拭いていた。 私と大門さんが観た映画は、小説が原作のラブストーリー。主演が私の好きな女優さんと有名なタレントさんで、友達も絶賛していた純愛映画だった。 高校生の男の子と女の子が主人公の学園ものでもあるけど、すれ違ったり、近付いたり、転んだり、気付いたりしながら、二人は距離を縮めていく。 そういう話だった。 どうして泣けたのか、よくわからなかった。 「あれ。柊、携帯、鳴ってる」 「ふえ?」 講堂を出たところで、私もはっとした。マナーモードにしていた携帯電話が着信を知らせるためにバイブレーションしている。 こんなときに、誰だろう。そもそも、こういうときって、出てもいいんだっけ? 大門さんを盗み見ると、目が合った。 「出れば? 俺、グッズ見てるから」 「は、はい……」 大門さんの厚意に甘えて鞄から携帯を引っ張り出す。着信はしつこく続いていて、空気読めよとか言いたくなった。 折り畳み式だから、ぱちんと開くと、音符のマークが画面に表示されていて、バイブレーションの原因が電話だってはっきりわかるんだけど。 本来なら着信相手が示されるべきところには、非通知、との表示が。 誰かわからないけど、出てみないことには何も始まらないし、長いこと鳴ってるし。通話ボタンを押してみる。 「もしもし?」 受話器の向こうはノイズだらけだった。 ざ、ざ、ざ、ざざ、と、不定期に響く雑音。電波が悪いのかな? 場所を移動してみても、ノイズはノイズのまま。都会は高いビルがたくさんあるから、電波はやっぱりよくないらしい。 「もしもーし?」 「な、……さん、……て」 「んん?」 耳を澄ませば、ノイズの間に人間の声らしきものが挟まっていることに気付いた。 「だれ? ごめんなさい、電波が悪くて」 「なつき、さ……だ……」 私の名前を呼んでいる。知り合いかな。 「な……さ……アイツだ……は、ダメなん……! アイツは……で……、……!」 声は、ざざざ、ざざざ、ざざー、というノイズに飲まれて、勝手に切れた。 ぽかんと携帯の画面を見つめるけど、それは待ち受けのフラッシュで、気怠そうにしているのが売りのにゃんこがあくびをしているだけだった。 最後のほうなら聞き取れそうだったけど、何て言ってたのかな。高めの声だったから、男の人ではないと思うけど。 アイツ……だけは。 アイツ……だけは、ダメ? アイツだけは、ダメ。 なぜか覚えのある言葉。 でも、私にそう言ったのは、誰だったっけ。もしかしたら、さっき観た映画の中の台詞だったのかも。 おかしいなあ。 どうしてこんなに、もやもやするんだろ。 [しおりを挟む] ← |