episode.5



 ***


 いつの間にまた抱きしめられていたのか、気が付くと、私は天使くんの腕の中にいた。天使くんの腕の力はぎゅう、と強い。
 私は体から力を抜いて、そのまま彼に身を任せた。小さな体に回していたらしい腕もだらんと垂れさせる。
 首筋はまだ痛いけど、初めよりはかなり楽。どのくらいの時間が立ったんだろう、記憶が少し飛んでいる気がした。乾いた涙でうまく動かないまぶたをそっと下げて、ただ、天使くんの温度を感じる。

 なつかしいにおい。
 かわいくて大好きな天使くんのにおいだ。

 まぶたを上げた。

「あまつかいくん」

 できるだけ優しい声が出るように頑張ったつもりだけど、空気を震わせたその声は、思ったよりも小さくてかすれていた。

 天使くんは腕の力を少し弱めた。それでも抱きしめられていることに変わりはないから顔は見えない。

「……なつきさん」

 私と同じ、小さくて、少しかすれた声。

「もう、ほとんど、痛くないよ。ごめんね、ありがとう」

 静かな部屋の中、カチカチと鳴り響く時計の音。

「……オレのせいです。オレがもっと、守るってことの意味を、わかっていたなら」

 天使くんはずっと私を守ってくれているんじゃないの? テンシとして、危険なことから私を守ってる。そうでしょ?
 小さいときに降ってきた、光るものは。あれはきっと、天使くんがそばにいてくれた、証拠。そんな気がする。

「アイツに狙われたのも、オレが過保護だったせいなんです。狙われる原因を作るなんて、テンシ失格だ……」

 よくわからないけど、今、私を助けてくれたのは天使くんだよ。それは絶対だよ。

 かたかたと震え始めた天使くんに何かしてあげたかった。小さな子供みたいで、涙を流さずに泣いている彼を、今度は私が守らなくちゃ、って。そう思った。
 天使くんがどうして自分を責めているのかはさっぱりだけど、でも、天使くんはきっと悪くない。天使くんは十分に頑張ったはずだよ。

 私は垂らしていた腕をのろのろと持ち上げて、きゅっと、天使くんを抱きしめ返した。首筋に嫌な感触を覚えながら、声を掛ける。

「ありがとう、天使くん。ありがとう」

 ちょっと強く抱きしめ直したら、首筋がちりちりと痛み出したから、思わず手を離した。

「……無理をさせてすみません」

 途端に聞こえた謝罪の声。

「まだ、痛いんですよね……?」

 そう言いながら、天使くんは私の背中に回した腕を動かして、不吉な感覚の残る首筋に触れた。火傷でもしたような瞬間的な痛みは反射的に身を引かせるものだけど、天使くんにしっかりと包まれている今の私にはそれができなかった。

 確かに痛かった。

 首筋じゃない。天使くんの震える声が心を軋ませた。

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