episode.4 大門、さん? どうしてそこで、大門さんの名前が出てくるの? ダメって、何が。 顔をはさまれたまま、私は困惑していた。 天使くんと大門さんが話しているところなんか見たことないし、そもそも二人の部屋の間には私がいるから、あんまり親しくないと思っていたのに。何かはわからないけど、ダメって言うのは、大門さんのことを知っていないと出てくる言葉じゃない。 顔から圧迫感が消えた。 私から手を離した天使くんがうつむいている。 とにかく、天使くんが大門さんをよく思っていないらしいことはわかった。 だから私は笑顔で提案する。 「あ、天使くんも、大門さんと仲良くしようよ。大門さん、すごくいい人だよ」 「……なつきさんをこんな草むらに連れ込んで何をするつもりだったのかは知らないけど、オレには信用できません」 「うっ」 顔を上げた天使くんの切り返しは早かった。しかも、そこを突かれると、何も言えなくなってしまう。 で、でもでも、それって天使くんにどうこう言われる範囲の話じゃないよね。 不満が顔に出たのか、天使くんはまっすぐな瞳で私と目を合わせた。何だかやっぱり、大人っぽくなった気がして、どぎまぎする。それでも優しい金色はそのままだから、落ち着きもするんだけど。 「オレはなつきさんのテンシなんですよ。なつきさんを守るのが使命なんです」 それから、前とは違ったエンジェルスマイルを浮かばせる。かわいいからかっこいいへ絶妙な変化を遂げたその笑顔に、心臓が跳ね上がった。 いけない。 「なつきさんはそのままでいてください。あいつはオレが引き受けます」 不意に脳裏をよぎる低い声。 (柊が俺を忘れないなら。そういうふうになってもいいって思うけど) (なあ、柊。柊はきっと、俺を忘れないでいてくれる。だから) (俺は柊が欲しい) (柊。さっきの、考えておいてくれよ) (そういう意味だって、わかるよな?) 胸がぎゅっと痛くなった。 目の前にいるのは天使くん。どうして大門さんじゃないんだろう。大門さんは、そばにいてほしいときに限って、姿をくらませてしまう。ミステリアスで、ちょっぴり意地悪な男の人。 そうだ。 私は大門さんの告白に返事をしなければならない。 私は大門さんのことを……? また、胸がぎゅっと痛くなった。 私が大門さんに抱いている不透明な気持ち。この気持ちの名前は何だろう。 憧れ? 親愛? ううん、もっと別の何か。 天使くんは何故だか悲しい顔をした。やだな、と思った。 そんな顔されると、苦しくなるじゃない。ただでさえ胸が痛むのに、余計につらくなるじゃない。 私のテンシなら笑っていてよ、ねえ。私も笑うから、だから。 ねえ、天使くん。 つづく [しおりを挟む] ← |