episode.4


 目の前がチカチカして、私は大門さんを突き飛ばした。前に大門さんに噛み付かれて、そう、天使くんの指がなぞった傷。それが焼けるように痛い。冗談抜きで焼けてるみたいに熱い。

「痛い……っ、なに、これっ」

 大門さんは尻餅をついて、そのまま私を見上げている。さっきと同じように笑っている。

「アイツ、本当、抜かり無いんだな。へえ」

 私は激痛に立っていられなくなって、その場に座り込んだ。

「柊。さっきの、考えておいてくれよ」
「だ、大門、さん……っ」
「そういう意味だって、わかるよな?」

 涙目になりながら助けを求めると、彼は私の首筋を舐めた。ざらりとした舌の感触が生々しい。

「──っ!」

 一際ひどい苦痛がぞろぞろっと這ったかと思うと、痛みはあっさり引いた。ぼろりと涙がこぼれたのとほぼ同時。

「あれっ?」

 さっと吹いた風がひんやりと首筋を冷やす。

「あ、えっと。ありがとうございました、大門さ……」

 きっと大門さんが助けてくれたんだろうと思って顔を上げたのに、彼はもうそこにいなかった。
 痛みは引いたはずなのに、今度は心のほうが軋んだ。


「なつきさん」

 天使くんの声が聞こえた。どこからという説明はできないけど、どこかから、確かに、聞こえた。

「……なつきさん」

 軋んだ心は元に戻らない。
 声だけでもかわいさが十分伝わってくるはずなのに、私はまったく癒されなかった。天使くんはベリーキュートでも、それを見ている私の心持ちが変わってしまった、から。?

「痛みを伴わない行為なんて存在しないんだよ。だから、ぼくはきみからその機会を奪った」

 天使くんは何を言いたいんだろう。どんな顔をして、そんなことを言っているんだろう。

「過ちだね。過保護だ」

 でも、一つだけわかる。天使くんは笑ってはいない。

「きみはそんなに弱くない。だから、本当は自由にしたいところなんだけど」

 母性本能をくすぐるような、あのエンジェルスマイルは浮かべていないと思われる。私のお気に入りの笑顔。天使くんが笑ってくれるのは、幸せ。

「アイツだけはダメだ」


 あ。

 ふわりと舞い降りるようにして私の視界に現れた天使くんはどこか大人びて、凛々しくなったように感じた。

 ああ、また胸が痛んだ。

「なつきさんには悪いけど、オレが処理するよ」

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