episode.4


 大門さんは大人っぽく笑ったまま、口を開いた。

「柊って、かわいいよな」

 ……かッ!?

「いっ、いきなり、何を言うんですか。私よりかわいい子なんていっぱいいますよ」
「柊がかわいいんだよ」

 ひ、ひええ……!
 学内で運命的に出会った、アパートのお隣りさんで、格好良くて素敵な大門さんが、正面に座って私を見ながらにこにこしてるってだけでも奇跡なのに!

 これはどうしたの!?
 私、夢でも見てるのかな!?

 かわいい、なんて、正面切って言われたの、初めてかも……。

 や、やだな、お世辞ってわかってるのに顔が火照ってきた。

 大門さんはそんな私に気付いているのかいないのか、余裕そうに笑っている。からかいがいがあるとか思われているのかもしれない。くそう、大門さん、それでも魅力的なのが悔しい。

 もうさすがに正面からは見ていられないからうつむこうとしたら、ちょいちょい、手招きをされた。

 ? 何だろ?

「どうしたんですか?」
「ちょっと大声で言えないから耳貸して」
「えっ……あ、はい」

 大門さんに耳を寄せる。

「柊、」

 ぞくっ、と、した。
 男の人の、ささやくような、ちょっと掠れた声がこんなに色っぽいものだとは知らなかった。耳打ちってとても恥ずかしい気がするから、早く済ませてください大門さん。

 でも──大門さんはその後も何かしらつぶやいていたのだけれども、私の脳みそには言葉なんて欠片も入ってこなくて。

 柊、

 私の名前を呼んだときのくすぐったさだけが耳の中で反響する。柊、柊、柊、……。じんわりと痺れるような、不思議な感覚。
 大門さんと初めて会った日の、気持ち。

 どきどき、する。


 気が付くと、私は学食ではなく、人気のない草むらにぐったりと立っていた。さわさわと風が吹いている。
 体に力が入らないのに立っていられたのは、大門さんが私の腰を抱いていたせい。

 あれ……?

 何故だか息が上がっていた。胸が苦しい。
 でも、脳の芯は甘く痺れている。まともに物が考えられなくなるような魔法でも、掛けられているみたいだ。
 何だろう。いつの、間に?

 だけど、大門さんといるとこんなことがよくあるけど、嫌じゃない。むしろ……。


「なあ、柊。柊はきっと、俺を忘れないでいてくれる。だから」

 大門さんの声──。


「俺は柊が欲しい」


 首筋に掛かった息、甘さに身を任せようとした途端、そこに激痛が走った。

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