episode.4 私がまだ小さかったとき、近所にすごくきれいな男の子が住んでいた。公園の前の三階建ての家にいて、いつも、二階の窓から公園を見ていた。 いつも、っていうのは、もしかしたら違ったのかもしれない。でも、私がスコップとバケツを持って公園に遊びにきたときにはいっつも、そこにいたから「いつも」だと思う。 バケツに水をいっぱい入れて、砂場に運ぶ。スコップを使って砂山を築いたり、それに水をかけて固く頑丈にしたり、時には泥だんごを作った。 きれいな男の子はいつも私を見ていた。私もきれいな男の子を見ていた。色々遊んだ後の砂場を見せると、男の子はにっこり笑ってくれた。 金色っぽい髪の毛ときらきらした目はちょっと怖かったけど、背中に生えた真っ白な羽が私を安心させてくれた。 星の夜、祈るのが私の習慣だった。ベランダに出て、月と星と、見上げる。そのときも、きれいな男の子は隣りにいて、寄り添ってくれた。 男の子は話せないみたいで、でも、私にはその男の子の言いたいことがすぐにわかった。男の子はいつも言っていた。 ぼくのことはナイショだよ。 ふふっと笑ってくれるから、私は男の子のことをナイショにしていた。だって、もしも誰かに話したら、いなくなっちゃう気がしたから。 私はそのナイショにとても安心していた。 小さいころからずっと、光る羽根が降っていて、私はそれに守られていた。 ……まばらにしか人のいない学食でぼーっとしながら、私はそんなようなことを考えていた。 んだけど。 「よお、柊」 目の前の椅子を引いて、真っ黒な服を着た男の人がそこに座ったものだから、私の思考はカチリと停止した。 「だ、大門さん、ここの学生だったんですか？」 「まあな」 呼吸まで止まりそう。 だって大門さん、同じ大学に通ってたなんて。確かにあの激安アパートはこの大学に近いからおかしくはないんだけど、でも、これを運命と呼ばすに何と呼ぶ！ 「でも、今まで一回も会いませんでしたよね？」 「学内広いから。俺もこの間、柊、見掛けたばっかりだし」 「えっ、全然気付きませんでした！ いつですか？」 大門さんは肘をついて微笑んでいた。 わわ私、変なこと言ったかな。そんなことないと思うんだけど。 そんな正面から見つめられると……！ ［しおりを挟む］ ← |