episode.3



 前から少し思っていたことだけど、天使くんは何かにつけてキスしてくる気がする。それが嫌とか言うんじゃなくて、どっちかっていうと好きなほうなんだけど、一体どういう意味があるのだろうか。
 天使くんにされることは不思議と安心をくれるから、おまじないか何かなのかな。

 天使くんってもしかして、欧米育ち?
 キスは挨拶とか、私にはよくわからないところの人なのかもしれない。

 涙が落ち着いてくると、私はそんなことを考えていた。

 一つしかない羽は痛々しくて、苦しい気持ちになるけど、天使くんはそんな私を見ているときにばかり、悲しげな顔をするから。
 私を守ったって。だから失ったんだって。それをわかってるなら、私は、天使くんに笑顔を見せなくちゃ。

 天使くんに笑っていてほしいと思うのは、結局、私のためになってしまうのかもしれない。それでもやっぱり、そう思うことは止められないし、止めたくない。
 それをエゴって呼ぶなら、私はエゴイストでいい。


 額へのキスのあと、また抱きしめていた天使くんは、そこでじっとしてくれていた。私はそんな天使くんをぎゅうっとしてから、ぱっと離した。

 目が合った天使くんはどこかぽけっとしていて、とてもあどけなかった。ああ、本当に、たまらなくかわいい。

 それからふと立ち上がり(さっきまで立てなかったのにすごい)、さらっと笑った。

「帰りましょうか」

 ちょっと、胸が痛い。

 そんなものは無視して、私はうなずいた。

「では、失礼します」

 何かを断った天使くんが急にしゃがんだかと思うと、私の体はふわりと宙に浮いていた。

「え……えっ!?」

 俗に言う、お姫さまだっこ。
 私はそんな大層なものをされていた。

「あま、天使くん、私、自分で歩くから!」

 にこにこしている天使くんは私の開け放った窓に向かっててくてく歩いていくだけで、私の言葉にはちっとも返事をくれなかった。

 どういうこと? 欧米の人はお姫さまだっことか平気でしちゃうの? 漫画の中の話じゃなくて!?

「いきますよ、しっかり掴まっていてくださいね」
「へ?」

 窓枠を飛び越えた天使くんはしっかり地面に着地した、かと思いきや、次に襲ったのは身に覚えのある浮遊感。
 どこまでも続くような青い草原を幻のようにすり抜けて、私たちはどこかに急降下。

「……にゃああああああっ!」

 変な悲鳴を上げながら、私はまた気絶した。



 つづく

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