episode.3



「なつきさん! なつきさん!?」
「ん……」

 目が覚めたのは、明らかに私のベッドの上ではなかった。柔らかさと保温性が全然違うし、第一、私のベッドには屋根なんて付いていないはず。これってまさか、噂の天蓋付きベッドってやつじゃあ。

「なつきさん!」
「ひゃあっ?!」

 とか何とか考えていると、耳元で名前を叫ばれてびっくりした。
 その勢いでガバッと起き上がる。

 ゴツン!

「いっ!」
「いたあっ!」

 おでこをぶつけた。
 天使くんのおでこに、私のおでこがぶつかって、見事なハーモニーを奏でた……。

「そ、それだけ元気なら、大丈夫ですね」

 涙目になって額を押さえた天使くんがちょっと笑う。あ、もう、かわいい。ショタコンじゃないけど、かわいいなあ。
 何だろう、この感覚。すごく懐かしい。一か月前、初めて天使くんに会ったときと同じ感覚だ。私はとてもうれしかった。

 天使くんがかわいく笑うだけで、幸せな気持ちになる。

 けど、ここは本当にどこなんだろう。最初は天蓋付きベッドに驚いてまわりに目がいかなかったけれど、部屋も随分と広い。赤い絨毯が敷き詰められていて、飾られた瓶には綺麗な花がたくさん生けてある。天井もかなり高いみたいだし、窓もおしゃれで大きい。壁には絵画まで飾ってある。
 洋館、しかもかなりお金持ちの屋敷ってイメージ。

 ひえー。

「ところでなつきさん、どうやってここへ来たんですか?」

 涙を引っ込め、天使くんは首をかしげた。

「どう、って」

 そう言われてみればそうだ。わたしはいつ、こんなところに来たんだろう。確か、天使くんのスペシャルシーフードカレーを食べて、お礼を言おうと。そう、お礼を言わなくちゃ。

「カレー、おいしかったよ。ありがとう」

 笑ってみせた。だけど、なぜだか、表情を作るのが難しかった。顔の筋肉が引きつっているような感じ。
 天使くんも変な顔をした。

「カレーのお礼を言うために、天使くんの203号室に入ったら」
「オレの?」
「いきなり空から、落ちて……」

 事実に気が付いて、体中に悪寒が走った。いやな汗が手や背中からぶわっと吹き出す。
 叫ぶこともできないほどのスピードで急降下。そうだ。私は。

 しぬかとおもった。

 言葉にしてみて初めて、それがどんなに危ない状態だったか、理解した。こうして天使くんの顔を見ることができるのは奇跡なのかもしれない。
 この気持ちを、恐ろしかったという気持ちをどうにか伝えようと思ったけど、口に出すのがまた怖くて、私は何も言えなかった。
 つう、と、ほっぺたに何かが流れる。

「なっ、なつきさん?」
「私、生きてるよね? ここ、天国とかじゃないんだよね?」
「いえ、天国ですけど」


 !?

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