初めは教室であれこれ聞こうと思っていたのだが、そこからはなかなか人が引かなかったので、わたしは早々にプランの変更をすることにした。お母さんには遅くなると伝えたものの、このような理由で時間を取るつもりはない。もう、帰りながらでもいいです。

 無邪気にしゃべる三人娘の輪にいながら、わたしは葉山楓のいる男子グループのほうを見てみた。タイミングが合ったのか、葉山楓もわたしのほうを見ているところだった。
 アイコンタクトとしてはこれで十分だろうか。少々心配だ。

 ちらりと教室の扉へ目をやる素振りをして、戻す。何かに勘付いたような顔をした。

 三人に断りを入れてからスクールバッグを肩に掛け、わたしは教室を出た。
 早足で廊下を行き、詰まることなく下駄箱を通過して、何事もなく門をくぐった。

 そこで、当然のようにわたしを追い掛けていた葉山楓が、自転車に乗りながら追い付いた。

「なあなあことり、いきなり帰ったりしてどうしたんだよ?」

 ……アイコンタクトがまったく通じていなかったとかそんなことはどうでもいい。
 単刀直入に言ってやらないとわからないのだろう。

「君のことを知りたいから、君のことを教えてほしい」

 天才なら天才なりに何かあるはずだ。

「オレ、のこと?」

 歯切れが悪い。

 身体測定の記録用紙を躊躇いもせずに見せたのだから、自分のこともぺらぺら話すかと思ったのだが。
 見当違いだったのだろうか?

「名前はえーと、葉山楓。10月7日生まれのB型で、身長体重はさっき見たよな? 部活は軽音。ドラム予定だけどまだどうなるかわかんないかな。中学のときは家庭部に入ってて……」

 あ、そういうことじゃないです。

「わたしは君が強い理由を聞きたい、んだけど」

 先ほどの歯切れの悪さはどこへやったのか、つらつらとプロフィールを公開し始めた彼に追加注文をしてみた。

「へ? 強いって、オレが?」

 素っ惚けている。
 カラカラと回る自転車の車輪の音がいやに耳に付いた。

 一度だけうなずく。

「……ことりがどういうふうに『強さ』を計ってるのかはわからないけど、オレ、そんなに強くないぜ?」

 わたしの渾身の蹴りをうまく受けておいて、こいつは何を言うのか。わたしの認めた強さを否定することは、わたし自身の能力の否定にも繋がる。

「君はわたしの全力を受け流すことができる。高い技術の受け身を取れる。それは誰かから教わったものではないの?」

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