「グッドモーニング!」 予想通り、やってきたのは咲乃と沙夕里だった。軽く駆けた小枝が二人に朝の挨拶をビシッと決めて、三人でこちらへやってくる。 「あんたは朝から元気ねえ」 「咲乃、話し方が年寄りくさいよ」 「失礼ね!」 口論のようなこのやり取りは日課なのか、沙夕里が間に入って「まあまあ」と仲裁をしている。癖毛くんも今日は貼り付いておらず、和やかな風景である。 「おはよう、ことりちゃん」 「おはよー」 「……おは、よう」 わたしはというと、彼女たちとは一か月ぶりに会ったような気持ちでいた。 慣れないのだ。この空気に。 ほにゃほにゃしていて、生温くて、殺伐に馴れたわたしには順応しにくいような。 わたしは友達なんてものを、よく、知らないから。 自分の席に荷物を置いて、咲乃と沙夕里はそれぞれ体操着へ着替えを始めた。小枝はわたしの席に体操着を置き、ブレザーのボタンを外していく。 それに倣うように、わたしも体操着へ袖を通した。 嫌な予感がしていなかったわけではない。物語でいうところの伏線だってあった。 わたしたちが更衣をしている最中、女子生徒が次々と登校してきて、体操着姿が増えてきたころ。 着替えは済み、四人で他愛も無い話をしていると、噂の伏線は残念ながら回収された。 ……あの不審者、葉山楓が教室の扉を呑気に開けやがったのである。 「あ、れ?」 教室がざわついた。 葉山楓は状況に付いていけないようで、わたしも反射的に足を動かした。 扉まで走る。 少し前までのわたしなら、何の迷いもなく相手を蹴り飛ばすことができたはずだろう。しかし、少し前までのわたしは今のわたしではない。 あろうことか、直前で躊躇ってしまったのだ。 繰り出した足が空を切る。驚いている暇はないが、そんなまさか。 避けられた! けれども、ここで止まったなら、この不届き者に制裁を加えることができなくなる。女子生徒の着替えを覗かせることは許さない。 勢いはそのままにタックルをかました。 「うわあああっ?!」 視界が傾いて、恐らく、廊下へ倒れた葉山楓が叫んだ。 わたしもやつの上へ倒れ込んだが、この後にすることは事前に決定していたので立ち上がりは早い。急いで教室の扉を閉めた。 ついでに初めて見た貼り紙の内容を読む。男子生徒は二階の生物室へ、だそうだ。 振り向くと、ブレザーもネクタイもぐしゃぐしゃな不審者とご対面。 「やあ」 気さくに挨拶をしてみたのだが、葉山楓はぽかんとするばかりで、なかなか反応を返さない。 [しおりを挟む] ← |