──小枝?

「だから、何度も言ってるけど、君たちとは一緒に帰れないんだってば……」

 小枝の、声だ。
 しかも少々投げやりで、天真爛漫といった普段の彼女らしからぬ声色をしている。玄関で、何かが起きているのだろうか。いや、だろうかどころではなく、これは何か起きている。

 小走りにそこへ着くと、下駄箱を背にして、二人の男子生徒に囲まれた小枝が見えた。泣きそうになりながら縮こまっている。

 なんだ、あれは。

「ことりー! やっと追い付いた! って、あれ、どうかし……」

 なんだ。

 あれは。

「こ、ことり」

 わたしに気が付いた小枝は、蚊の鳴くような声でわたしの名前を呼んだ。
 ずるりとその場にへたりこんで、顔を伏せる。

 肩を震わす。

「うわー、女子泣かせやがったな」
「うるせーよ、お前だって同罪だろー?」

 男子生徒たちはからから笑っていた。

 そうか。なるほど。
 詳しい状況までは分からないが、まあ。

 そんなのはどうでも、いいことだ!

 床を踏み締め、短距離で加速。
 何をするかとか、いつ繰り出すかとか、そういうのは体が先に動くから考えなくてもいい。誰の、どこに決めるかだけを考えればいい。

 さあ、好きなだけ唸れ、わたしの右脚。

「うわあああ!?」

 男子生徒の悲鳴。

 しかし、モーションに入った途端に、わたしの肝は冷えきった。

 視界に何かが、入り込んできた。

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