部活動見学者を速やかに下校させるように、ということで、わたしは三人の先輩に見送られ、調理室をあとにした。 廊下を歩く。 壁や窓に貼られた部員募集のポスターの数が、増えている気がする。しかも、軽音学部ばかりだ。迫るように、所狭しと、スペースを占領する。 その必死さが滑稽に見えた。 それを眺めながらしばらく行くと、既に多くのポスターがあるというのに、さらに新たなポスターを貼ろうとしている男子生徒に出くわした。 「もう無理だぞ、これ」 歩みは止めずに背中を見ていると、その人はそんなことを言いながら、偶然振り返った。 ……葉山楓だった。 うっかり立ち止まる。 「あー、ことりだ。部活動見学、行ってたんだ?」 誰でも分かるほど、疲れていらっしゃるようだ。 「オレさー、このポスター帰りながら貼ってこいって部長に言われてぷらぷらしてるんだよ。どっかいいとこない?」 確かにこの人、スクールバッグを肩に掛けていた。 「困ったなあ……」 しかし、そんなことは、わたしにとってどうでもいい。 無駄に足を止めてしまったせいで、わたしはこの状況を打破する方法を考えなくてはならなくなった。早く帰りたい。 適当に提案するしかないだろう。 「天井にでも貼れば」 というわけで、天井を指差すと、葉山楓も真上を向き、それからパッとわたしへ目をやると、喜々とした表情で手元のポスターを押し付けてきた。 何だこれは。 「ことり、頭良いな! ちょっとそれ持ってて、椅子運んでくる!」 勢い付いて、跳ねるようにその場を駆け出した葉山楓。何故かポスターを片手にやつを待つはめになったわたし。 一分もしないうちに、葉山楓はそばの教室から椅子を運んでくると、わたしに預けていたポスターを天井に貼り付けた。 あとは知らない。 帰る。 「あ、ことり、ちょっと待てってば! オレも帰るからさー!」 知るか。 声など聞こえないふりをして、わたしは歩行速度を上げた。どうして、昨日と今日と、黙って付きまとわられなければならない? 回避できるのならそうすべきである。まったく、勘弁していただきたい。 一年生用の玄関はもうすぐだ。葉山楓は隣りにいないし、その場の流れで、となることはないだろう。 そこで安堵したかったのだが、わたしはどうも、騒がしいのからは離れられないらしい。 「だ、だから、わたしは、人を待ってて」 [しおりを挟む] ← |