何を言うつもりだ?
 いや、分かっている。言うことなど一つしかない。十中八九、その、新しく入るらしい後輩というのは、あの不審者のことなのだから。

「先輩」

 あの奇異な視線は、それほど痛いということはないけれども、これから先のことを考えると困りものだ。

「……新しく入るらしい後輩と、同じクラスみたいだったから」

 わたしの信号を鋭敏に察知し、サイドテール先輩はそう言い直した。
 副部長さんには頼るなと教えられたが、彼女には信用が置けそうである。
 小さく息を吐き、わたしたちは視線を交わした。

「そうなんだあ」
「でもまあ、よくあることよね」
「だったらお前、軽音からこっちに何人か誘っておいてくれよ」
「嫌よ。高堀マジギレするし」

 それから談笑するうち、この家庭部、あの部員募集の貼紙の様子が示したように、人数がかなり少ないことが分かった。
 彼女たちが一年のとき、二年の部員はゼロで、三年生が六人いただけだったらしい。そこに入部したのが今の部長さんと副部長さんだった。
 しかし、三年生が卒業するとなると、また人数が激減して部は解体されてしまう。だから、活動の少ない文化部に所属する友人に声を掛けて、その部の部員兼家庭部部員という形で名前だけ借りているとのこと。

 サイドテール先輩もそのうちの一人だった。

「でも、どこの文化部だって、運動部に人取られちゃって大変なんだよねえ」

「宣伝しないと存在すら知られないままだもんな」

「人が入る文化部なんてのはブラスバンドだけよね」

 激しい部員争奪戦を勝ち抜いた部だけが生き残る。シビアな世界だ。

 そこまで話されて、今後の展開に気が付かなかったわたしは、この空間の中で思考する能力を低下させられただけに違いない。

「だからねえ、椎野さん。あっ、ことりちゃんって呼ぼうか」
「お好きにどうぞ……」
「じゃあ、ことりん」

 ネーミングセンスが突出し過ぎていて、何も言えなかった。

「クラスにね、まだ入る部活決めてない子がいたら、一応でいいの。勧誘しておいてほしいなあ」

 部長さんは、ただ、ぽけーっとしているだけの少女ではなかったらしい。重要なところはきちんと押さえている。
 わたしはまだ入部届を出していないため、正式な部員ではないし、また別の部活動に入部することも視野に入れて良いはずだ。

 しかし、ここまで過酷な状況を聞いておいて、やっぱり他の部にしますなんて言えるわけがない。
 他に興味のある部活動など無かったが。

「わかり、ました。聞いてみます」

 そう答えたときにちょうど、校内放送で、部活動見学の時間が終了したことが告げられた。

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