「ごめんねえ、待たせちゃって。レモンティー作ったから飲んでいって?」

 予測はあっさり当たり、調理室からは女子生徒が出てきた。校章は赤色。間延びした話し方が特徴的だった。
 細く、ふわふわとしたセミロングが、童顔とあいまって可愛らしさを醸している。優しい顔立ち。

 促されるまま、彼女に付いて調理室へ。後ろから見て気が付いたのだが、撫で肩なのがまた女性らしかった。

 中央に洗面台、両端にコンロやオーブンなどが取り付けられた机が六つほど置かれたその部屋は、何事もなかったように見える。あれだけ煙が出ていたのだから、惨事の爪痕くらいあってもおかしくないはずなのだが。
 ホワイトボートの前にも調理場が一つある。恐らく教員の実演場所だ。

 洗面台を仕切りにして四人座れるその机は、調理室の前と後ろにそれぞれ三つずつ設置されており、前列中央の机に二人の生徒がいた。一人は先ほどわたしの脇を駆け抜けた男子生徒。もう一人はサイドテールの女子生徒で、二年生。
 他には誰もいない。

「ここ座っていいよ」

 男子生徒と向かい合わせで、わたしを引率した女子生徒が左側になる席だ。
 卓上にはティーセットがあって、男子生徒のほうがレモンティーをカップに注ぐと、ご丁寧にもソーサーに乗せて渡してくれた。

「はい」
「いただきます」

 一口飲む。
 並みか、それ以上においしい。

「さて。じゃあ部長、部活紹介しようか」

 目の前で、ふわふわした雰囲気のかわいい女子生徒に、男子生徒がカンニングペーパーを差し出した。適当だ。

「任せて、宮部くん!」

 男子生徒は宮部というらしい。まあ、あの状況で彼以外に「宮部くん」はいないと踏んでいたけれど。
 部長とやらが小さな咳払いをした。左側の席で。はい、近いですね。改まる必要性をまるで感じない。

「ようこそ、家庭部へ。家庭部は基本的に週一回の活動で、基本的にはみーんなでお料理をします」

 サイドテールの女子生徒は眠そうにしている。

「えっと、星上祭で……星上祭は分かるかなあ? この学校ではね、体育祭と文化祭をひとまとめにしてそう呼んでうっ」

 あ、噛んだ。

「よっ、呼んでて、星上祭って言うの。一年に一回あって、そこでは作った食べ物を売ります」
「質問!」
「ええっ、えっと、はい。じゃあ、花音(かのん)ちゃん、どうぞ」
「例えばどんな食べ物を売るんですかー」

 打ち合わせでもしたのだろうか、何やらシナリオがあるようだが、花音というそのサイドテールの女子生徒は気怠そうである。

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