かなりのスピードで着替えを済ませると、体育館シューズを持って体育館へ滑り込む。生徒たちは整列し掛かっていた。 わたしたちも急いで列へ加わる。 星上高等学校の体育着は学年ごとに配色が異なっているらしい。聞いた話ではあるが、制服の校章と同系色になっているそうだ。二年生は淡い赤、三年生は淡い青。そして、わたしたち一年生は淡い緑。 ジャージの下のポロシャツは全学年白だが、名前の刺繍が義務付けられているため、その刺繍糸の色がまた学年ごとに違う。学年色と言うらしい。 今は春先。前にファスナーの付いた長袖のジャージを着て、ジャージよりも濃い色のハーフパンツを履く生徒が最も多かった。 「間に合ったね」 並びは男女別の名簿順、四列縦隊だ。近くにいた小枝が安堵の息を漏らしている。 「これから地獄のランニングだよ、頑張ろうね!」 軽く頷いた。 まずは準備運動をする。 そして次にストレッチ。 この時点で授業の三分の二ほどの時間を使い果たしていた。 この後、十分ほど走ることになる。ウォーキングからジョギング、ジョギングからランニングへ徐々に入っていき、走り続け、それが終わったら授業も終了ということらしい。 走るのは嫌いではない。毎朝走り込みをしているわたしからすれば、慣れたものである。 しかし、中学三年生で部活を引退し、受験勉強に勤しんでいた新一年生にしてみれば、かなり間を開けての運動になるはずだ。わたしのような人間は少ないだろう。 それはランニングを始めてから分かった。 お決まりのように、仲の良いグループでいくつかの集団を作って走り出した女子生徒たち。 わたしも小枝たちの集団に入る、というよりも小枝たちがわたしに寄ってきたのだけれど、そんなふうにして走り出して数分後。 沙夕里の気配が近距離から消えていた。 聞くところによると、彼女は運動が苦手らしい。まだ五分しか経っていないというのに大丈夫だろうか。 そしてまた、一、二分が経つと、小枝がへろへろの笑顔で「先に行っててー」と脱落。 わたし、咲乃の順で先頭軍団の中を走る。 「やっぱ、ことり、体力あるわねっ」 息が上がっている彼女の言葉はぶつぶつ切れていたけれど、まだ平気そうな雰囲気だ。 「咲乃もね」 「あたし、運動好きだし、得意だからっ」 その後、わたしたちは十分をきちんと走り切り、咲乃は涙目の沙夕里の背を撫でてやっていた。 それは彼氏である癖毛くんがしそうなことなのに、と辺りを見回せば、彼はげっそりした顔でふらふらと沙夕里に近付くと、その手を伸ばした。 「だ、だめ、」 ふらふらの沙夕里はそれを避ける。 癖毛くんの顔には、微かではあるけれど、絶望の色が見えた気がした。 [しおりを挟む] ← |