先ほどから台詞ばかりで状況が分からなかっただろうが、あれだ、あー、葉山楓だ。あの不審者がいきなり飛び出してきて、進行阻害をしている。

 わたしが右へ動けば右、左へ動けば左と、通せん坊でもするように道を塞いでくるのだ。

「というわけで! せんぱーい、入部きぼ、うわ!」

 びゅん、と風を唸らせ、わたしの拳を葉山楓の鼻先に突き付けた。

「わたし、行くところがあるから。そこ、退いて」

 低い声でつぶやけば、この弾丸トーカーな少年が黙り込んだのがめずらしいからだろう、空き教室からわらわらと人が出てきてしまった。
 横目で確認しても十人はいる。

 ゆっくりと拳を下ろし、ぽかんとする葉山楓の脇を擦り抜けた。

「あなた、ちょっと待ちなさい」

 が、すぐさま呼び止められる。

 振り返ると、ちょうどぱちっと目をしばたいた葉山楓の隣り、茶色掛かった髪の毛を肩まで伸ばした女子生徒がわたしを見ていた。
 他の部員たちが彼女へ視線をやっていることから、わたしを呼び止めた本人だと判断する。

 気の強そうなひとだ。校章の色は赤、二年生で間違いないだろう。
 語尾には、怒気のようであって、完全には怒気でないようなものがこもっている。

 スリッパをぺたぺた鳴らして近付いてくると、勝気そうな目じりで、こう言った。

「バンドとかって本当に興味ない? 軽音楽部、楽しいよ。どう?」

 ……。勧誘?

 喜々とした表情で入部の勧めをされた。いやいや、あなた、先ほどのやり取り聞いてなかったんですか。

「ごめんなさい」

 とりあえず即答した。

 先輩に当たる女子生徒は別段驚きもせず、深く一度だけ頷いた。
 怒気のようなものは怒気ではなかったらしいが、勢いのわりに、潔い。

「そうだよね。いきなりじゃあ良さが分かるはずもないよ。まあ、まずは説明聞こうか」

 ……切り返し。

「あの、だから。わたしには行きたい場所が」

「何部の見学? 明日もあるかもしれないじゃない、だったら今日はここに! いても! 平気だよ!」

 見学したい部の名称をこそりと教えれば、彼女は目を光らせて笑った。

「入るかどうかはまた決めてもらえばいいから!」

 ……わたしはどうも、ここらで落ちなければならないらしい。

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