「また続きが笑える……」 ベンチから腰を浮かし、わたしはスカートであるのも構わず足を持ち上げて彼の腹に膝を食い込ませた。 「っ!?」 数秒も掛からずに繰り出したわたしの技をまともに食らって、少年はその場から少し後退してふらつき、何も言わずにうずくまる。げほごほ言いながら、うっすらと目に涙を浮かべていた。痛いものは痛い、当たり前だ。 しかし、わたしの鉄拳制裁をきちんと二度も食らったはずなのに、彼の意識は飛んでくれなかった。確かな手応えもあったはずなのだが、おかしい。もしかしなくても、今日は不調なのだろうか。 「ったたた……」 顔を上げた彼を一睨み。その雰囲気で、『少しは黙れ』と伝える。 「えー、と?」 が、どうやらうまく伝わらなかったようだ。きょとんとして、わたしを見ている。まったく、こいつは。 「オレ、何か、悪いことしたかなあ……なんて」 だから、わたしは直接言葉を投げてやった。 「人の話は聞きなさい」 そして、ベンチに置きっ放しだった鞄を手に取りアルバムをしまう。軽く首を回し、息をついた。 通い慣れたはずの公園の風景は、不審者の侵入によりいつもとはどこか違って見えて、不思議だった。古びた滑り台も、凹凸の激しい砂場も、茂みに隠れた小さなシーソーも、最近色を塗り替えたばかりのブランコも、何もかもが別世界のよう。もうここにいる気分ではない。 「じゃ」 説教一つを残し、わたしは公園を後にした。そこにいた少年がどんな気持ちでいたのかなどと考えることもなく、ただ、もう二度と会わないであろう人間に二度と見せない背中を見せて帰路につく。 ──そんな考えが甘かったということなど、その頃のわたしには分かるはずもなかったのだが。 麗らかな春の日。 受験当日間近な、卒業式の日の午後だった。 [しおりを挟む] ← |