ぽかん、と口を開け、状況把握に挑んでいる様子。とりあえず体を起こしてその場に座り直し、その少年は困ったような顔をしてわたしを見上げた。

「何かわかんないけど……ご立腹、中?」

 怒らせたのは君だろう、と思いつつもうなずき、相手を睨み付ける。このベンチに触れるな。ましてや座るなどと……許さない。そんなことを考えているのなら近寄らせもしないぞ、わたしは。

「あの、ごめん? そんなに大切だったのか、そのベンチ」

「……」

 わたしは目を丸くして彼を見下した。なぜなら、彼がとても素直に謝ってきたからである。これは初めてのケースだ。わたしなら、いきなり二回も蹴飛ばされて睨まれて、理由も定かではないままこんなことをされたら怒るはずだ。いや、まあ、それをしたのはわたしだけれども。

 胸ポケットに挿さっていたカーネーションがぽとりと地面に落ちる。
 何の迷いもなくそれを拾い上げた少年は、先ほどの失態を繕うかのようにへらっと笑って口を開いた。

「あれ、君も卒業生だったんだ。オレの中学の制服じゃないみたいだから、違う学校のだけど」

 カーネーションを受け取ったあとの一瞬、ほんの少しだけ、思考回路が停止した。しばらくして、彼がごく自然に世間話を始めたのだと認識する。

「でもさー、中学の卒業式って辛いよなあ。在校生だったときもだけど、いちいちみんなに卒業証書渡すんだぜ?」

「そ、そうだね」

「高校は代表者が受け取るだけだから楽なんだって。式辞とかも毎年そんな変わらないのに、お日柄もよくーなんて律義だよなあ」

「う、うん……?」

「校長もさ、きっと面倒くさがってるに違いないんだよアレは。寝てる先生だっているくらいだし、なら手っ取り早く終わらせちゃえばいいのにな。まったく」

 弾丸トーカーだ。
 この人はとてつもない弾丸トーカー。わたしのもっとも苦手とするタイプの人間ではあるが、ここまで勢いの良い人間は初めてだ。思わず、よく舌が回る人だなと感心してしまった。

 初対面の人間相手に、ここまで笑顔で接することができるとは。こうしてわたしが色々と感想を並べている間も、彼は延々と語り続けている。もしや、ぬいぐるみ相手でも話ができるのではなかろうか。

「それで、学校にバイクが侵入してそいつは連れていかれたわけなんだけど、」

「──あの」

「先生たちがめちゃくちゃ慌てちまってさー。素知らぬ顔してバイクは行っちゃうし」

「わたし、帰る、よ」

「数年前の卒業式でもそんな騒動があったみたいだけど、みんなぼけーっとしてたんだぜ!」

 ──いらっ。

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