わたしが少しばかり目角を立てていると、「まったく、失礼しちゃうよねえ」という女子生徒の声が聞こえた。視線を戻すと、そこには途方に暮れたような様子の少女がいた。 「ことり、何かあったみたいだけど……って、あれ、その子同じクラスの?」 追い付いた葉山楓が、廊下に座り込んだ少女とわたしとを交互に見る。 「あ、気にしないで! 大丈夫だから、そーだよね椎野さん!」 「え……」 「天ノ宮(あまのみや)さんはピンピンして元気ですよー!」 女子生徒、しかも、葉山楓によると同じクラスらしい、天ノ宮とやらは胸を張って笑った。何回も自分でうなずいて、廊下の壁に手を添えて立ち上がる。 保健室行きを提案する他なかった。 「天ノ宮、さん。行こう」 「そうだね、よし、行きましょー! ということだから。大丈夫だよ」 天ノ宮さんは親指を突き立てて、それを葉山楓にグッと見せつけた。 「そうか! よかった、じゃあ行ってらっしゃい!」 清々しい顔をして応える葉山楓。すごい、この天ノ宮さんとやら、そのスキルをぜひわたしに伝授してはくれまいか。 行こ、と声を掛けられ、彼女を支えながら何歩か進んだ。葉山楓は見守っているらしい。彼女はまだまだ歩いた。変な歩き方に見えないよね、心配してもらうの苦手だよー、などと言いながら廊下を折れて階段に差し掛かる。 「それでさ、椎野さん。どこ行くの?」 笑顔の天ノ宮さんは、わたしにとって、小枝同様未確認生物に思えて、無意識に表情が緩んでしまった。 「椎野さんに呆れられた! 不覚だあ」 「まさか……、そんなことは、ないよ」 「そう? そうなんだ、びっくりしちゃったよ」 一度保健室で診てもらうことを伝えれば、行くの手伝ってくれると助かるかなーと遠慮がちに頼まれた。もちろん承諾すると、椎野さんは義理堅い人だねーという真剣なつぶやきが聞こえて驚いた。 そこで不意に、昼間もらった飴玉のことを思い出したのがまた不思議である。 「ああ、そうだ。これ、お詫びに」 なるかは分からないけれど。ポケットに突っ込まれた、不良くんからもらった飴の小袋を手渡す。 「え、わざわざ? ありがと、私このキャンディ好きなんだよー」 「……行こうか」 「うん、肩貸してねー」 [しおりを挟む] ← |