SIT:01 何者だ、こいつは。 春の日差し、開き始めた桜のつぼみ、文句の言いようがないくらいに晴れ渡った空。そして、中学校指定の鞄を手に、公園で立ちすくんでいるわたし。 目の前のベンチでぐーすか眠っている少年。 何者だ、こいつは。 「オレ、そんなに第二ボタン持ってないよう……うへへへへ」 断言しよう。 ──気持ち悪い。 眠っている人間に危害を加えるのは道徳に反する上に、もちろん卑怯だ。それはちゃんとわかっている。わたしだって卑怯なやつは嫌いだ。 しかし。 「いやあ、参ったなー……むにゃむにゃ」 わたしは首を回し、軽くストレッチを始めた。今日は卒業式で朝から座りっぱなしだったため、体の動きがぎこちない。これでは相手に迷惑だろう。 と、いうか。普段はわたししか座っていないこのベンチに不審者が眠っているのだ。人間じゃない、ただの不審者が。 この世の中、弱肉強食なんですよ。無防備に寝てる方が悪いんです。 わたしは、ベンチによだれを垂らしかねない少年を横なぎに蹴り飛ばした。 「っ!?」 吹っ飛ぶ少年。 「う、えええ……!?」 ずどしゃああっ! と、物凄い音を立てて砂場に落下。立ち上ぼる砂煙を背に、わたしは満足顔でベンチに腰掛けた。 鞄から卒業アルバムを出して、ぱらぱらとめくる。入学式から文化祭や体育祭に合唱会なんかの写真がたくさん載っていた。 遠くで聞こえる鳥のさえずりと誰かのむせる声。 「今、なに、何が起こったんだ?」 先生たちの集合写真の中には、かわいそうな髪の毛をした校長の姿も確認できる。ハゲになるなら早めになった方がいいよって言ってあげたのに、最期まで粘る気なのかしら。 「ねえねえ、そこの君。オレさ、最初はベンチで寝てたつもりなんだけど……どうして砂場に寝てたんだと思う?」 わたしは顔を上げた。 「寝相が悪かったんじゃないの」 ていうか、蹴られたことすら覚えてないのか少年。熟睡できていたなんて逆にうらやましいぞ。 「あー、やっぱり? オレもそうかなって思ってたところでさー」 照れたように笑う少年は自然な動きでわたしの隣りに座ろうとした。 「ちょっと、待って」 「え?」 わたしに制された少年はきょとんとし、わたしを見つめた。 軽く足を薙ぐ。 「っ!?」 足場を崩された彼はバランスを失い、あっさりと地面に突っ伏した。 「な、何……?」 あまりの早業に頭がついていかなかったのか、少年は目をぱちくり。きょとんとしたままでつぶやく。 「このベンチはわたしのもの……、許可もなく座ったりしたら」 パキ、ポキ、と指を鳴らして凄んでみせる。その言葉に目を白黒させながら、少年はいまだに状況を理解していないようだった。 [しおりを挟む] ← |