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 そして、なにゆえにこうなるのか。

「迷った」

 一人ぽつんと、校内のどこかの廊下でつぶやく。歩き回ること十分少々、そろそろ現状を認めなければならない。

 入学して一週間。職員室のある本館棟、何があるのかよく知らない二棟、一年生の教室が詰め込まれた三棟、中庭、購買、グラウンド、体育館、武道場、弓道場。ついでに駐輪場。それらが収まった敷地というのが星上高等学校である。
 決して、広くはないはずなのだ。中学に比べれば広いが、迷うほどではないと思っていたのに。

 わたしは自分の教室、つまりは1年7組へ帰ってくると、一旦鞄を下ろし、一息ついた。背面黒板に貼られた校内地図を確認していくべきだった。不覚を取ったようだ。
 誤解が生じそうなので断っておくが、わたしは方向音痴などではない。入学したてのため、まだ教室移動をしたことがないだけだ。様々なレクリエーションはほとんど1年7組で行なっていた。

 地図に顔を近付ける。
 目的の場所は本館棟の一階、しかも目立たない所にあるらしかった。廊下の端だ。
 再度鞄を提げ、教室を出る。

 ふと、どこかから、ギャイーンという無機質な音が聞こえてきた。この音はあれだ、ギター。
 師匠が昔、弾語りしていた楽器。

 そういえば、この学校には軽音楽部というものがあった気がする。そこに低いメロディが乗った。
 上手い下手は分からなかったが、なかなか耳心地の良い音楽だ。

 しかし、道草を食っている場合ではないので、さっさと廊下を抜けてしまうことにした。

 音が近付く。
 同じ階の部屋で演奏しているらしかった。

 廊下の窓、部員募集のポスターがべったり貼り付けられた窓の向こうには、結構な晴天が広がる。

「あ、ことり!」

 ……良い天気だ。今日は卵の特売がやっていただろうか。いや、しかし、卵はまだ冷蔵庫にたくさん残っているはず。

「天ノ宮さんは? あ、保健室に連れていったんだっけ。急にすっ転ぶからびっくりしたよ。本人は平気だって言ってたし、大した怪我じゃなかったんだよな。でも、入学早々あれはないよなあ。テンション下がるっていうかさ」

 卵……。

「そうだ! オレ、この部に入ろうかと思ってるんだけど、ことりもどう? 文化祭でそれぞれバンド組んで歌うらしいんだ、すごいだろ。説明聞くよな!」

 ……卵、割りたい。

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