「そういえば、さっき葉山くんが呼んでたよね」

 この子は精神年齢が高いのだろうなと思った。落ち着き具合を見ればわかる。大人であるがゆえに、状況に応じて自分の感情に嘘をつけるタイプだ。その面を考えてみると、わたしはまだまだ子供なのかもしれない。

「聞こえ、なかったから」

 わたしは嘘が苦手だ。お母さんにも「ことりは素直だから、嘘をつくとすぐに顔に出ちゃうのよね」と言われたことがある。

「ああ……もしかして、葉山くんのこと苦手?」

 だから、こうやって嘘をついても、敏感な人にはすぐにバレてしまう。仕方なくうなずいた。何しろ、出会い方が最悪だったのだ。わたしのベンチに腰掛けただけでなく、そのあとは付きまとわれているし、これで苦手にならないほうがおかしいのではなかろうか。彼は不審者だ。わたしは自分の身を守るために彼を攻撃しただけで、そう、つまりは自己防衛。

「そっか……。でも別に、悪い子じゃないと思うよ。行き過ぎムードメーカーって感じはするけど」

「そう……なんだ。人のこと、よく見てるんだね」

 いわゆるヒューマンウォッチャーというやつか。羽柴さんはまた、小さく微笑んだ。



 昼休みが終わり、最後の授業の終わりを示すチャイムが鳴り、分担された区域の掃除を済ませて一日の学校生活が終わった。小枝は用事があるらしく、さっさと帰ってしまった。そしてわたしは、あの不審者に捕まる前にと素早く行動し、教室から出ていく担任の、ええと、志内振蔵を追いかけた。

「先生」

「ん? おお、椎野か。俺は月曜日の決闘を楽しみにしているぞ」

「いや、そうではなくて」

 どうして、あなたまでもが子供のような顔をして喜ぶんでしょうか。

「何だ?」

「ええと……あの、アルバイトの許可をいただきたいのですが」

 は、という顔をした志内振蔵は「バイトをする理由は?」と尋ねてきた。当たり前と言ったら当たり前の質問だ。

「わたしの家には、お母さんしかいないんです。高校の学費って高いでしょう? だから……」

 だから。
 そう、わたしはお母さんに負担を掛けたくない。人は年老いていく。家事は分担しているとはいえ、無理などしてほしくなかった。

 遊ぶために、こそこそ隠れてアルバイトをする子たちとは違う。わたしは、学校にも認めてもらってお母さんを助けたいのだ。これは中学生のころから考えていたことだったため、何としてでも通したい。

「……わかった。詳細を知るための書類をやるから、ちょっと職員室に来い」

 志内先生はそう答えた。第一段階クリアというところか。恐らく、あとは書類審査のようなことをするのだろう。お母さんにも手伝ってもらって、早く書き上げねば。

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