こちらの彼女の身長は高校一年生の平均と同じくらいだろうか。隣りの、咲乃と名乗った少女とは正反対で少し長めのスカートをはいている。掛けた眼鏡がおしゃれに見えるほど似合っていた。実際に頭がいいのだろう、コツコツと努力していそうな人だと思った。

「……初め、まして」

 言うと、少女たちはうれしそうに笑った。

「あたしね、椎野さんの大ファンなんだ! ね、ね、月曜日とかすっごく楽しみにしてるのよ!」

「は……はあ」

「葉山をノックダウンさせたときの、あの蹴り! あれがもう一回見れると思うとわくわくしちゃって!」

「あ……りがとう……?」

「絶対勝ってよね!」

 一気にまくし立てられて困り果てるわたし。ちょっと待て、いきなりファンですなんて言われても、何と返せばいいのかわからないじゃないか。それに、あれは事故であり、わたしはそういう目的で不審者を蹴り上げたわけではない。そんな、大きな目をらんらんと輝かされても……どうしろと、言うのだ。しかも、わたしが担任の教師に勝つことを望んでいるなんて、担任不孝者というか何というか。

「咲乃ちゃん、椎野さん困ってるよ?」

 そこで、穏やかな助け船が出された。

「へ……? あ! ご、ごめんね。あたしってば、テンション上がっちゃうとまわりが見えなくなっちゃうタイプで」

「あはは、だから彼氏できないんだよ」

 謝る彼女と、それに関する意見を笑顔でさらりと述べてみせた小枝。石のように固まる咲乃さん。……うわ、見た感じ地雷だったみたいです。しかも、それを笑顔で踏んでみせた上になおも気付かない小枝さんはすごいと思いますが。

「ああ見えて、小枝ちゃんって無意識な毒舌家なの」

 こっそり耳打ちをしてくれた羽柴さんに苦笑いを向けて、それは意外な一面なのかも、なんて思った。半狂乱の山江さんは小枝に食ってかかっている。まさに平和そのものな顔をした小枝は、食ってかかられる理由が思い当たらずに慌てふためいていた。

「……仲、良いんだね」

 ぽつりとつぶやけば、羽柴さんがきょとんとした。それから「小枝ちゃんと咲乃ちゃんのこと?」と尋ね返してきたので、一度だけこっくりとうなずいた。

「私たち、同じ中学校出身でね。私と小枝ちゃんは一年生のときに、小枝ちゃんと咲乃ちゃんは二年生のとき、それから、私と咲乃ちゃんは三年生のときに同じクラスだったの」

「……へえ」

 そんな面白いクラス分けだったのか。素直にすごいと思った。そして、同じ高校に進学して、三人は同じクラスになった。

「すごい、ね」

 羽柴さんは自慢げに微笑んだ。仲の良かった子が二人も同じクラスにいるのだからそれはそうか。本当にうれしそうだ。

「しかも、学校始まってばかりで有名になっちゃった椎野さんとも同じクラスだし」

「う」

 優しい声音でからかわれてしまったわたしは、言葉に詰まった。不可抗力だ。「わっ、なんで泣きそうになりながら怒ってるの!」と言ってわたわたする小枝と「小枝が空気読めないからじゃないっ」と悔しそうな顔をする山江さん。

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