「ハルっていうのは、わたしの幼なじみでね。入学式に出られなかったわたしのために色々教えてくれて、その中に決闘の話も入っていたわけなのです」

 自慢げに胸をそらした小枝は、教室の窓際で談笑をしている複数の男子がいる方を指差した。彼女のその行為に気がついたらしい男子生徒が一人、ひらひらと手を振っている。そのグループの中では長身に入る方で、よくわからない方向にはねた髪の毛がチャームポイントというところか。

 彼のその行為を見た他の男子生徒も、つられたかのようにこちらを見た。

 ……うげ。

「こーとりーっ!」

 なれなれしくもわたしの名前を呼んで、ぶんぶか手を振るあの男子生徒は……言わずもがな、だ。見なかったふりを、というか見なかったことにして目をそらす。視界に入れてはならないのではないか、あの生き物。昨日は同情をかけて公園まで引っ張ってやったとはいえ、あまり関わりたいタイプではない。わたしは静かな場所が好きなのだ。

 それなのに。

「楓くん、手振ってるよ? いいの?」

 いいんです。
 わたしの目一杯の拒絶を見て判断してください。

 人というものには、初対面に近い人間には好印象を与えておきたいという願望が少なからずある。わたしが先に上げたことを言えずにいた理由はここにあるのだ。まあ、不審者の声を無視しているという時点で、印象など悪い気もするけれど。それとこれとは別問題だ。

 ふと、真後ろに気配を二つ感じた。

「椎野さんって、ほんと、葉山に好かれてるよねえ」

 隣りにいた小枝は、突然掛けられた声にびっくりして振り向いた。わたしはというと、そんな台詞に嘆息する。別に好きでそうされているわけではないし、むしろ迷惑なくらいだ。

「び、びっくりした。いきなり話し掛けないでよ、咲乃(さくの)」

「ああ、ごめんごめん」

 おや。
 今、声を掛けてきた人物は小枝の知り合いか。

 わたしも振り向いた。

 長身。170センチくらいだろうか。いや、それよりは低いかもしれない。短いスカートからすらっと伸びた足はスタイルのいい体を支えていて、手を加えたかのようなストレートの髪の毛が肩に流されていた。小枝ほど長くはなかったけれど、それがなびくさまは絵になる。前髪は持ち上げられて大きなピンで止めていた。少し吊り上がった大きな目はぱっちりしている。

「初めまして椎野さん、あたし山江(やまえ)咲乃。こっちは、将来有望な生徒会役員になる予定の羽柴沙夕里(はしばさゆり)ね」

 こっちは、と紹介された少女に目を向けると、ふわりとやわらかい笑みが返ってきた。にこり、というオノマトペが見えたほどだ。雰囲気が、何と言うか、穏やかで……やわらかかった。

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