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 担任の教師に相談をしなければならないことが、一つだけある。いや、下手したら生徒指導の教師にもお世話になるかもしれない。そうなったら、あの校長にも世話になるのだろうか。

 そんなことをぐるぐると考えながら、はむはむとおいしそうに弁当を食べる小枝に視線を送ってみた。

「早いよねえ」

 パクパクごくん、と弁当を平らげた小枝は、水筒から出したお茶を飲んでからそう言う。昼休みが始まってから十分も経っていないというのに、彼女は自分の弁当を恐ろしいスピードで流し込んでしまった。

「何が?」

「時間だよ、時間。もう金曜になっちゃったなあ、って思ってさ」

「……ああ」

 かくいうわたしも最後のおかずを口の中に放り込んで昼食終了。弁当箱のふたをカパリとかぶせて、小枝との雑談を楽しむことにした。

 昼休み中の教室はにぎやかで、こういう空気は嫌いじゃないなと思う。

「月曜日楽しみだねっ」

 にこにこした小枝がうれしそうに言うものだから、わたしも思わず笑顔を向けた。しかし、月曜日に何かあっただろうか。普通に授業があるため、みんな嫌がるはずだろう。楽な授業はといえば、六限目にあるホームルームくらいだ。

「月曜日って……何か、あったっけ?」

 何だか胸がざわつく。
 そんなわたしの心境になどまるで気がついていない様子で、小枝は笑みを深くしてこう答えた。

「ことりと志内(しない)先生の決闘だよ!」

 ……え。

「しない……先生?」

「うん。わたしたちの担任の先生ね、志内振蔵(しんぞう)っていうんだよ」

 それは、初耳だ。いや、わたしが担任の話をまともに聞いていなかったから聞き逃しただけなのかもしれなかったけれど──ではなくて。

 小枝は今、何を。

「聞いたよ、ハルから! あの楓くんを教室の扉と一緒に蹴り飛ばして、廊下まで吹っ飛ばしたんでしょ?」

 ちょっと、待て。色々と意見したいことがあるのだが、まず第一に、その説明は間違っているんじゃないか。意訳というかもはや尾びれと背びれがついているではないか。まるで、わたしが怪力人間だとでも言うように。というか、ハルとは誰だ。のしてやりたい衝動にかられる。

 それに、志内振蔵という担任の名前も、だ。読み方を一歩間違えたら、竹刀振るぞうに……では、なく、て。そうではない。そんなこと言いたいわけではなくて。わたしはどうも、小枝のペースに飲まれかけてしまっている。

 脳内が混乱し始めたわたしを不思議そうに見ている小枝は、鞄の中からポッキーの箱を取り出してそのうちの一本をわたしに差し出した。とりあえず受け取って、ひとかじり。

 少し苦いが、それでもやはり甘い味が口の中に広がっていった。

「甘いもの食べると落ち着くような気がするの、わたしだけかもしれないけど」

 ブラック、と表記された菓子箱をぷらぷらとゆらしながら笑う。面白いことなど何もないのに、なぜそんなにうれしそうな顔ができるのだろうか。少し、うらやましい。

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