……少し冷たい風が頬をなでていく。春とはいえ、まだ肌寒い季節なのだ。 砂をじゃりじゃりと踏み鳴らしながら、わたしはベンチに腰を下ろした。大きく息をつけば、遠くのすべり台に転がせておいた少年が目に入ってくる。 わたしは、あの少年と出会った公園にいた。 この場所は、仕方なく選ぶはめになってしまったのだ。わたしの家はもちろんダメなのだが、他にも行くあてなどなかった。あの少年の家など知らない。知っていても連れていきたくはない。しょうがない処置、だ。 自分の軽率な行動は自重せねばならないな、とぼんやり考える。体力に自信があったわたしでも、疲れていた。 「う……ぐ……」 不意に、少年がもぞもぞと動き始めた。すべり台の幅は狭いため、彼も苦戦しているようだ。 てくてくと歩み寄り、すっぽりとはまっていた両肩を軽く持ち上げてやる。 「うう……、……あれ、ことり?」 彼の口からかすれた声がもれてきた。わたしは答えず、ただ彼の荷物をその手に押しつけた。焦点が合っているのかどうかわからない目をしながら、そいつは体を起こして頭をかいた。 役目を終えたわたしは、さっさと公園から出ようときびすを返した。 だが。 「ちょっと、待って」 少年に腕をつかまれて仕方なく静止する。ゆっくりと振り向けば、彼はうれしそうに笑っていた。 「ここまで、運んでくれたんだよな。ありがとう」 対してわたしは、感情が表に出ないようにして驚いていた。かかと落としを食らわせたことには触れず、ここまで運んできたことにだけ礼を述べているのだから当たり前だ。 もしや、自分に都合のいいことしか覚えていないのだろうか? ならば、短絡的で便利な頭だと思う。 「……どういたしまして」 わたしのこの行動には様々な理由があったのだが、それをわざわざ訂正する必要もないだろう。眉をひそめつつも社交辞令としての言葉を返した。 そして、今度こそ帰ろうと彼に背を向けて歩き出した。 「じゃ、また明日学校で会おうなー!」 わたしが公園の出入り口に着いた時、元気な声が飛んできたので振り返った。そこには、心底うれしそうに手を振る葉山楓がいた。これまた社交辞令として、小さく手を振ってやる。心なしか、彼の笑みが深くなったような気がした。 それを見て驚く。 いや、うらやましかったのかもしれない。素直に笑っていられることや、言いたいことをズバズバと吐き出せるその姿が。 しかし、わたしはそんな羨望の感情など認めない。だから、何がそんなにうれしいのだろう、という疑問は風と一緒にどこかへ流した。 [しおりを挟む] ← |