ふああ、と自然に欠伸がこぼれた。退屈な始業式のあとの退屈な担任の話。話の内容の主なことは配られたプリントに記述してあるのに、なぜわざわざ説明するのかがわからない。
 早く終わらないかな、と思いながら欠伸を噛み殺した。

 今日は天気がいい。
 始業式が終わったら、あの公園にいってお気に入りのベンチに座ろう。本当は毎日通いたいくらいだが、昨日は何だか混乱していて行くことができなかったから。

 日だまりの中で、風にゆられる木々を見るのが好きだった。そこで不意に思い出したのは、わたしが蹴り飛ばした少年のこと。
 あの人、また公園にいたらいやだな。まず、第一印象が悪かったせいで苦手意識がある。わたしが蹴り飛ばしてきた人の中で、彼のような反応をした人間を見たことがなかったというのもあるのだけれど。
 大抵の人間はわたしから逃げていく。わたしとしても好都合なのだが、あの少年は違った。話しかけてきたのだ。

「よし、じゃあ椎野と俺の決闘は来週の月曜日に決定でいいな?!」

『はーい!』

 流しそうめんのようにさらさらと流れていた言葉たちが耳の奥でつっかえた。右から左へ抜けずにしぶとく生き残ったそいつらは、わたしの嫌がる情報を伝えてくる。
 高校生にもなって、クラス全員で返事をするなんてありえないと思っていた。しかも決闘って本気だったのか。

 ……前途多難だ。
 月曜日の決闘はわたしが異論を述べても多数決をとられて終わりだろうから、他の方法を探さなければならない。先にあの教師をのしておこうか。もしくは欠席してみるとか。
 考えるだけ無駄な気がしてきた。早く帰らせてほしい。

 お気に入りのベンチに恋い焦がれつつ、わたしは現実から目を背けてうとうとまどろんだ。

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