何だ、あれか。 というくらいの事実なのに、辿り着くまでには相当な労力を必要としたように感じる。 わたしの家の位置がわかっているなら、わざわざ遠回りをすることもないなと、小道を戻り、大人しく正規ルートを行くことにした。不覚だった。いやいや、あれはもうどうしようもない出来事だ。 まさか、そう、遠い昔に噛み付かれて報復した犬に、偶然出会ってしまったかのような。 「やっぱりこっちから行くよな! 道、間違えたとか?」 君を撒くためだとも言えず、わたしはその言葉を聞かなかったことにした。聞かなかったついでに目に留まった口元のクッキーの欠片を取ってやった。 家の位置がわかっているなら何をしても無駄だし、お母さんのいるときに押し掛けられたりしたら……まあ、そこまではさすがにしないか。などと思いながら歩いていたものの、ふと、やつの気配が消えたことに気付いて後ろを振り返った。 「……あれ」 宇宙忍者ではなかったはずの不審者は、宇宙忍者よろしく、素早く姿を消していた。 前までならこう、追い掛けてきて鬱陶しいくらいに話し掛けてきて、というお決まりパターンだったのだが。 不思議というか不気味に思って来た道を戻り、わたしが進みかけた小道を覗いてみた。するとそこには、同校のブレザーの少年が、立ったまま自転車を漕いで爆走している後ろ姿が見えた。 自転車は時速20キロメートルほど出せると聞いたものの、あれはそれに近いスピードではなかろうか。 何故あんなスピードで走っているのだろう? 体力が有り余っているのか。 まあいい。わたしはわたしの帰路を行く。 SIT:06 終 [しおりを挟む] ← |